荒切

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「うっ、それは困る……」  たとえ持っていかれなくても、ゴミとして片付けられる可能性は高い。  落し物として届けてくれる人がいれば別だが、世の中そんなに優しくない。  四年と数ヶ月愛用しているお弁当袋は、お世辞にも綺麗とはいえないのだから。 「……じゃあ、山辺神社に届けてください」  あまり自分の家の場所を他人に教えたくはなかったが、今は緊急事態だ。 「もしかしてあんた、神社の娘?」 「そうですけど」 「ああ、道理で……」 「何がですか?」  意味ありげに自分を見た少年の視線に、椿は軽く眉をひそめる。 「いや、御饌って言葉知ってたからさ」  御饌とは、神に捧げる食事のことだ。  だが今そんな話はどうでもいい。  一刻も早く学校へ向かわねばならないのだ。 「とにかく、よろしくお願いします!」  椿は今度こそ学校に向かって駆け出した。
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