3人が本棚に入れています
本棚に追加
展示家具
家具が好きで、家具屋や、大手ショッピングセンターの家具売り場によく通っていた。
といっても、ちゃんとした家具を買ったことは一度もない。目当てはベッドやソファに横たわることだ。
寝心地、座り心地を確かめる意味で、どこの家具屋もそれを拒んだりはしないけれど、買いもしない奴が倒れ込むのは歓迎されない。
初来店時はにこにこしている店員が、人の顔を見るなり顔色を変える。それにあっちのベッドにどさり、こっちのソファにごろり、なんてことを繰り返した。
毎度来るだけ、試していくだけでも、もしかしたらいつかはお客様になるかねしれない相手。だから店員は注意などできない。
その立場にあぐらをかいて、今日も近くの家具屋に行った。
そこで見つけた一人がけソファに、俺の意識はたちまち吸い寄せられた。
色は黒。ぱっと見、材質はよく判らないが、革ではなさそうだ。
表面を触ってみる。手触りはすべすべ、少し押した弾力はふっくら。
たまらず、断りもなしにぼすんと全身をソファに預けた。
何という心地よさだろう。全身が沈み込んでいくように柔らかい。座っただけでたちまち意識が遠い所に運ばれていく気分だ。
いや、実際に意識が遠のく。
眠くなっているということじゃなくて、こう、薄れていくような…。
お仲間か。
あーあ。また一人来ちゃった。
そんな声が聞こえた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!