展示家具

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展示家具

 家具が好きで、家具屋や、大手ショッピングセンターの家具売り場によく通っていた。  といっても、ちゃんとした家具を買ったことは一度もない。目当てはベッドやソファに横たわることだ。  寝心地、座り心地を確かめる意味で、どこの家具屋もそれを拒んだりはしないけれど、買いもしない奴が倒れ込むのは歓迎されない。  初来店時はにこにこしている店員が、人の顔を見るなり顔色を変える。それにあっちのベッドにどさり、こっちのソファにごろり、なんてことを繰り返した。  毎度来るだけ、試していくだけでも、もしかしたらいつかはお客様になるかねしれない相手。だから店員は注意などできない。  その立場にあぐらをかいて、今日も近くの家具屋に行った。  そこで見つけた一人がけソファに、俺の意識はたちまち吸い寄せられた。  色は黒。ぱっと見、材質はよく判らないが、革ではなさそうだ。  表面を触ってみる。手触りはすべすべ、少し押した弾力はふっくら。  たまらず、断りもなしにぼすんと全身をソファに預けた。  何という心地よさだろう。全身が沈み込んでいくように柔らかい。座っただけでたちまち意識が遠い所に運ばれていく気分だ。  いや、実際に意識が遠のく。  眠くなっているということじゃなくて、こう、薄れていくような…。  お仲間か。  あーあ。また一人来ちゃった。  そんな声が聞こえた気がした。
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