あの夜、始まりの夜

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side:k その言葉を聞いた瞬間。 俺は皆月の両手をガッと掴んでいた。 「…!ま、かべく…?」 皆月がそろそろと顔だけを出して、俺を見上げていた。 その瞳は暗がりでも分かるくらい赤く腫れていて、俺は掴んだ両手を更にぎゅうっと握り締めた。 「あーー…ごめん!お前は悪くねぇ!悪いのは、俺だろ!置いてったのは、俺だろ!つーか、マジ、なんか、あん時パニクってて、勝手に、突き飛ばして…ほんと、悪いっつーか…マジで、ごめん」 俺は自分でも何を言ってるか分からないまま、とにかく謝り続けた。 何故だかはわからなかったけれど、俺はその時、謝っても謝っても謝り足りない気がしていたのだ。 突き飛ばしたのも悪い。暴言を吐いたのも悪い。その後放って帰ったのはもっと悪い。 でもそれ以上に、さっきの言葉を聞いた途端、何かこいつの、触ってはいけない、もっと深いところを踏んづけてしまったような気がしてならなかった。 「…あの、待たせて、悪かった…な」 その言葉に、皆月は途端大きく眼を見開いてしばらく俺の顔を見続けた。 それから、 「俺、も…っぅ」 と何かを絞り出しかけたところで、ガバッと俺の首根っこにしがみついて、いきなりわんわんと泣き出してしまった。 「ちょ、おい、マジかよ!みな、皆月!」 俺は焦って引き剥がそうとしたが、皆月はますます俺によじ登ってきて剥がれなかった。おかげで俺のTシャツは雨と涙と鼻水だらけになった。俺は皆月のとてつもない力強さに根負けして、ため息まじりに思わず天を仰いだ。 なんで付いてくるな、が、俺を待っていた、になるんだよ…? 待たせてごめんという、その言葉が正解なのかどうか、その時の俺には分からなかったけれど、皆月のこのぐちゃぐちゃの泣き顔を見ていたら、途端にさっきまでの緊迫した空気が緩んで、思わず力が抜けた。 そして多分、とりあえずはこれで良かったんだろう、と未だしがみついたままの細い身体を抱き抱えて、その時はそう、思えたのだった。 濡れてひんやりとしたTシャツ越しのそのぬくもりは、とても温かかった。
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