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「ーぷはっ、あー、生き返る…」
冷蔵庫の中に用意されていた麦茶を紙コップ2杯一気に飲むと、身体の火照りがひんやりとした冷たさに沈められるようで気持ち良かった。
ふと窓の外を見ると、相変わらず静かに雨が降っている。
明日の午前は海辺で遊ぶ予定らしいが、このまま降り続ければ、何か別の企画に変更になるだろう。
(海で遊びてーなー…)
そんな事を思いつつぼんやりと外を眺めていた俺は、ふと、ある事を忘れていた事に気付いた。
……あれ?
さっきの風呂で、俺、あいつ見たか…?
部屋に、あいつ、いたっ、け…
その瞬間、目が覚めたような、誰かに頭を叩かれたような感覚に襲われ、俺はダッシュで2階の大部屋に駆け上がった。
ふすまを開けると既に枕投げ合戦が開始しており、「光平、おせーよ!」と声が掛けられたが、俺はそれどころではなかった。
ーいない。部屋にはいない。
「な、なぁ!あいつ、皆月、誰か見てねぇ?」
「皆月ーー?えー、そういや見てねぇ気がする…ぶほっ!」
枕が顔面を直撃したらしく、そいつは布団に倒れこんだ。他の奴も知らねー見てねぇと言うと、また合戦を繰り広げ始めてしまった。
俺は急いで隣のクラスの大部屋を見に行き、男子トイレ、給湯室と1階の大広場、そして風呂場を見に行った。
いねぇ。
「マ、ジかよ…」
え、嘘だろ?あいつ、まさか、戻ってねぇとか?いやいやいや、あり得ねぇだろ、多分どっかに…
あ。
(…俺、あいつ、突き飛ばした…)
怪我、してたとか。
(えぇー…マジか…嘘だろ…)
俺は思わずへたり込んで両手で顔を覆った。心臓がものすごい速度で脈打っていた。
もし、もしあいつがまだあそこにいたら…これ、すげぇヤバイ事になるんじゃ…
「っあーーー、……ヤバイ、うん。……とりあえず行くしかねぇ、よな、これは」
風呂場の時計は21時過ぎ。
22時の就寝までに戻れば…なんとかなる。
俺は立ち上がって、急いで玄関に向かった。幸い玄関には誰もおらず、更にラッキーな事に、靴箱の上に懐中電灯が数本置いてあった。
俺はそれを1本取り上げて靴を履くと、鍵のかかったドアを静かに開けて飛び出した。
先程よりも雨が強く冷たくなっている事に気付いたが、俺は傘を差すどころじゃなくて、ライトの灯りを頼りに、先程の、あの山道に向かって一目散に走り出していた。
居なけりゃいい。
そう思いながら。
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