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さあさあと降り続く霧のような雨は静かに底冷えするような空気を含んでおり、俺の半袖をじわりとを濡らしていった。
睫毛にいくつもの水滴がついては視界が潤むのを、俺は掌で乱暴に振り落しながら林の入り口まで走り抜いた。
入り口は木が組み重なっており雨は少し抑えられているようだったが、それでも横風を受けて、木々の隙間から冷たい雨粒がパタパタと地面の葉を濡らしていた。
(ここに…)
この先は真っ暗だ。
先程の月明かりは消えて、ただひたすらに不気味な闇が黒々と口を開けていた。懐中電灯で先を照らしてみるも、光の先はぼやけて暗闇に飲み込まれるばかりだった。
俺はゴクリと唾を飲んだ。
もし、あいつがまだここにいるなら。この真っ暗闇に、ひとりでいるのなら。
今になって、俺の背中にじわじわと後悔が押し寄せてきた。
いくらあんな突拍子な事されたからって、突き飛ばして放置してくるなんてさすがやりすぎだった。
あいつ絶対、泣いてる、よな…
ぽつんと座り込んで、震えて…
待って、って、言ってた。
「…よし」
俺は懐中電灯電灯を握りしめ直して、その暗闇の口の中へと飛び込んだ。
雨水で少しぬかるんだ土の上を転ばないように歩きながら、俺は上を見上げた。月は雲に完全に覆われていた。小雨が木々の上で粒となり、俺の頭にボタボタっと降り注いだ。懐中電灯のおかげで道先を迷う事はないが、一歩足を踏み外すと土砂で滑り落ちそうだった。
(そろそろ…だよな…中間地点…)
時計はしていなかったが、15分程歩いたはずだ。
…居ないでくれよ。
そう思いつつ、俺は何故かあいつがまだあそこに居る気がしてならなかった。
居るなら、ちょっとは動いたのか?
足、痛めてたら動けないよな…
下手に動いて足滑らせてたら…
「皆月!!」
俺は見えない前の暗闇に向かって叫んだ。
「おい皆月!いるのか!?皆月!いるなら返事しろよ!」
俺は懐中電灯を振り回しながら光の先に目を凝らしてあいつを呼んだ。
返事はない。
(…あいつ、ほんとに落っこちてねぇよな…?)
まだだ、もう少し先まで…
その時だった。
俺の懐中電灯とは違う、ぼんやりしたオレンジの灯りが遠く先の暗闇から浮かび上がっているのが見えた。
(居た…っ)
「皆月!!」
俺はその灯りがぼやけている場所まで全力で走り寄った。
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