あの夜、始まりの夜

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side:k 皆月は、居た。 雨で全身びしょ濡れになりながら、ぬかるんだ土の上に座り込んで俯いていた。 「皆月!大丈夫か?」 俺が話しかけても、皆月はまるで俺に気づいていないかのように、ぼんやりと俯いたままだった。 俺は皆月の目の前にしゃがみ、顔を覗き込んだ。 「皆月?大丈夫か?おい?」 肩に軽く手をかけると、皆月はようやくピクリと動いて、そのまるまるした瞳をゆっくりと俺に向けてきた。 「…ま、かべ、く…?」 「そうだよ。俺だよ。あーーもう、ビビった!お前部屋戻ったらいねぇんだもん。まさか怪我でもしたんかと思って来てみたらマジでいるし」 はや口早に喋る俺の顔をぼんやりと眺めながら、皆月はパシパシと2回瞬きをした。 途端、大粒の滴がころころと頬を転がった。 「ちょっ…!」 泣くのかよ!! 俺は慌てて思わず、掌で皆月の頬をがしがしと擦った。 「おい、泣くなよ!どっか痛ぇのか?」 「…う、泣いて、な…、あ、雨粒が…っ」 そう言って皆月が頭を振ると、大量の滴が更にころころと転がった。 「…泣いてんじゃん…。おい、怪我でもしてんのか?」 そう聞くと、皆月は横に弱く首を振った。 よく見ると、服を両手でぎゅっと強く握り締めていて、その腕は小さく震えていた。 「してねーのか」 その反応に少し安心したものの、今度は逆に小さな怒りが沸いてきた。 「つーか、怪我してねぇなら何で帰って来ねんだよ!懐中電灯あるんだし普通にまっすぐ歩きゃ帰れるだろうが。お前放ってったのバレたら怒られんの俺だぞ!」 対して親しくもない皆月に嵌められる理由は特にないはずだが、山道に置き去りにしたという負い目からか、徐々にこの件が当てつけのように感じられてきて、思わず俺は声を荒げかけた。 「……それか、怖かったんかよ」 そうだ。 よく考えれば、それが1番妥当な理由だ。行きすがらだって、こいつはびくびく怯えてたはずだ。 でも、皆月はそれに対しても首を横に小さく振って、服を強く握りしめたまま何かを呟いた。 「………から」 「あ?」 俺は皆月の口元に耳を近づけた。 「…まかべ、くんが…」 「…俺が?」 「…ついてくるなって…言った。 …から…おれ、…」 こいつ、今自分の事おれって言った。 思わぬ言葉に気が逸らされてしまったが、次の言葉に俺は耳を疑った。 「…待って、た」 ………は?
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