141人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
side:k
皆月は、居た。
雨で全身びしょ濡れになりながら、ぬかるんだ土の上に座り込んで俯いていた。
「皆月!大丈夫か?」
俺が話しかけても、皆月はまるで俺に気づいていないかのように、ぼんやりと俯いたままだった。
俺は皆月の目の前にしゃがみ、顔を覗き込んだ。
「皆月?大丈夫か?おい?」
肩に軽く手をかけると、皆月はようやくピクリと動いて、そのまるまるした瞳をゆっくりと俺に向けてきた。
「…ま、かべ、く…?」
「そうだよ。俺だよ。あーーもう、ビビった!お前部屋戻ったらいねぇんだもん。まさか怪我でもしたんかと思って来てみたらマジでいるし」
はや口早に喋る俺の顔をぼんやりと眺めながら、皆月はパシパシと2回瞬きをした。
途端、大粒の滴がころころと頬を転がった。
「ちょっ…!」
泣くのかよ!!
俺は慌てて思わず、掌で皆月の頬をがしがしと擦った。
「おい、泣くなよ!どっか痛ぇのか?」
「…う、泣いて、な…、あ、雨粒が…っ」
そう言って皆月が頭を振ると、大量の滴が更にころころと転がった。
「…泣いてんじゃん…。おい、怪我でもしてんのか?」
そう聞くと、皆月は横に弱く首を振った。
よく見ると、服を両手でぎゅっと強く握り締めていて、その腕は小さく震えていた。
「してねーのか」
その反応に少し安心したものの、今度は逆に小さな怒りが沸いてきた。
「つーか、怪我してねぇなら何で帰って来ねんだよ!懐中電灯あるんだし普通にまっすぐ歩きゃ帰れるだろうが。お前放ってったのバレたら怒られんの俺だぞ!」
対して親しくもない皆月に嵌められる理由は特にないはずだが、山道に置き去りにしたという負い目からか、徐々にこの件が当てつけのように感じられてきて、思わず俺は声を荒げかけた。
「……それか、怖かったんかよ」
そうだ。
よく考えれば、それが1番妥当な理由だ。行きすがらだって、こいつはびくびく怯えてたはずだ。
でも、皆月はそれに対しても首を横に小さく振って、服を強く握りしめたまま何かを呟いた。
「………から」
「あ?」
俺は皆月の口元に耳を近づけた。
「…まかべ、くんが…」
「…俺が?」
「…ついてくるなって…言った。
…から…おれ、…」
こいつ、今自分の事おれって言った。
思わぬ言葉に気が逸らされてしまったが、次の言葉に俺は耳を疑った。
「…待って、た」
………は?
最初のコメントを投稿しよう!