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しばらく歩き続け、ようやく宿舎の灯りが見えた時は心底ほっとした。
やはり門限は過ぎていたようで、担任を含む何人かの先生が丁度玄関を出て探しに行こうとしている所だった。
俺はさすがに絞られると思っていたのだが、担任は皆月が俺にしがみついているのを見ると何故か驚いたような顔をして、それから何か納得したように微笑んだだけだった。
お咎めは、なしだった。
翌日、皆月は熱を出した。
(まぁ当然だよな。)
今日は楽しみにしていた海遊びで、皆はとっくに海辺に行っているというのに、俺は何故か、皆月の寝ている個室の布団の横にいた。
「光平ー、海、行かないの?」
「…行かねー」
「あ、そ。じゃあ、秋也くん看ててね。
先生、研修室いるから」
「…おう」
「…あんた達、なんか急に仲良くなったのね?」
そう言うと、担任はパタパタと部屋を出て行った。
昨日の一連は話していない。
遠くから、海ではしゃぐ友人達の声が響いてくる。それから、開け放した窓の外から、少し控えめな蝉の合唱。潮の香りが混じった涼しげな風が、時折吹き抜けてくる。
秋也が赤い顔をして苦しそうだったので、俺はアイスノンを新しいのに代え、団扇で扇いでやった。
(光平、ちょっとおいで)
担任にそう呼び止められたのは、昨夜、再度風呂に入って、寝ようとしていた時だった。
ーあのね。
秋也くん、ご両親がいないの。
お父さんもお母さんも家を出て、秋也くん、置いてかれたの。お家に、ひとりで。
親戚のおばさんがすぐ見つけてくれたらしいんだけどね。
秋也くん、待ってたって。
玄関でずっと、帰ってくるの、待ってたんだって。
「あの子がね、先生達から離れないのは、寂しくて怖いから。人のぬくもりを感じてないと、不安になるんだって。また、置いてかれるんじゃないかって」
突然の話に俺が戸惑っていると、担任は俺を見て、少し困ったように微笑んだ。
「…光平さ、秋也くんの友達になってやってくれないかなぁ。秋也くん、ずっとあんたに憧れてたの。友達になりたいって、ずっと。今日だって、秋也くんが先生以外にくっついてるの、初めて見たもの。…だからね」
私達じゃなくて、光平にね、あの子を引っ張って行ってあげて欲しいんだ。
どうかな、できないかな。
そう言った担任はしばらく黙って、それから俺の頭を撫でながら、ま、今日はゆっくりおやすみ、と言った。
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