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きっかけは、今でも覚えている。
7月。
潮風にムッとするような緑の青い香りが混じり、体に纏わりつく空気は少しベタついていた。
小学校からバスで2時間、目の前に広大な海を見据えるその高台に、林間学校の合宿所はあった。かつて戦時中には主要要塞として使われていた場所らしく、背後に広がる森には今でも砲台や要塞跡があちこちに残っており、まぁなんというか、今から考えるとよくあんな所で開催する気になったよな…というような、おどろおどろしい雰囲気も多少あったように思う。
けれどもそこはいわゆるガキだったので、目の前のきらっきらの海と、普段とは違う非日常的な2日間が始まるという事もあって、誰もがお祭り前のようにわくわく浮き足立って、いつも以上に騒いでいた。
この林間学校には友とのより深い交流と、自発力を促すという目的があり、各組毎に分かれ、宝探しやクイズといったレクリエーションや、要塞跡見学、夕飯作り、そしてお決まりの、肝試しからのキャンプファイヤーといったプログラムが組まれていた。
(…ひきょうりょくてきな奴)
大方のプログラムが終わり、夕飯で作ったカレーを口いっぱい押し込みながら、俺はあのなまっ白い小さな頭に向かって、 今日何度目かのその言葉をぼんやりと思った。
レクリエーションの宝探しの時、あいつは先生の足元で皆が探し回るのを見てただけだった。要塞跡見学だって、手繋いでもらってやがったぞ。
夕飯のカレー作りだって、あいつ、何かしてたか?気がつけば先生の横で、もそもそとカレー食ってやがる。
しかも全然、楽しくなさそうな顔で。
見ていたつもりはない。だが、気付けば視界の端には何故かいつもあいつがいた。
細くて白い手足がランタンの光にぼんやりと照らされて、今にも消えそうに薄く、小さく見えた。
同じクラスの同じ班のはずなのに、気が付けば今日、あいつと俺は、何も一緒にする事なく、何も話す事もなく終わってしまった。
そう思った途端、何故かもやっとしたものが胸に広がるのを感じた。
(…やっぱドッヂボール誘ってやんねー)
そう心に誓い、俺はおかわりした残りのカレーを掻き込んだ。
だが、夕飯を食べ終えた後の最大のイベント。
そう、肝試しで。(今なら親から危険だなんだと苦情が来るかもしれない)
俺はあいつと、2人で夜道を歩く事になるのだった。
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