あの夜、始まりの夜

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side:k 肝試しのルールは簡単だった。くじ引きで同じ番号が当たった人間と、要塞跡をぐるりと一周してくる、たったそれだけだ。(つーか肝試しではないと思う。) ただ、開始直前の「ここさー、昔から出るらしくてね、ほら、兵隊さんのアレとかさ…」という先生からの一言ははなかなか効果があったようで、スタート前から泣いている女子なんかもちらほらいたりして、スタート地点では妙な緊張感と高揚感が入り混じっていた。 (マジかよ) 結構な人数がいたにも関わらず、俺が引いた番号は38。ドベだった。 「うわ、こーへー最後じゃん!1番怖いとこじゃん!かーわいそー!」 仲間の1人が俺のクジを覗き込んでケタケタ笑ったので、デコピンを食らわせてやった。 別にドベでも構わない。もともと幽霊なんて信じちゃいないし、1番後ろなら、後から来る奴にせっつかれる事もない。のんびり歩いていきゃいい訳だし、楽な順番なんじゃねぇのか? なんて呑気に考えていた時、目の前に満面の笑みを浮かべた担任が何かを引っ張ってきた。 「光平、38番よね!」 「おぅ」 「じゃ、秋也くんペアでよろしくね!」 そういうなり目の前に引っ張りだされたのは、そう、あいつだった。 (マジか…こいつとかよ) そのなまっ白い体は俯いたまましばらく落ち着かない様子で、立ち去る先生に何か言いたそうにしていたが、ふと顔を上げた先で俺の視線とぶつかると、大きな丸い目を少しビクつかせて、さっきより更に縮こまってしまった。 (2人とか…絶対喋んねぇじゃん…) 顔が見えないくらいに俯いているあいつと 会話もなく立ち尽くす事数分。思ったより回りが早かったようで、気がつけばラスト、俺達の順番が回ってきてしまった。 「…おい、行くよな?」 振り返って声を掛けると、あいつはしばらく躊躇するように立ち尽くしていたが、懐中電灯を両手で固く握りしめて、それからゆっくりと、小さく頷いた。その顔は、いつも以上に白く見えた気がした。
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