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ー月明かりすら遮られる、木の生い茂る夜の森。先程から、フクロウやら訳のわからない動物の鳴き声が、時折吹く風と共に森の闇に溶けては消えていく。
無音。…そして無言。
そんな林に囲まれた細い山道を、俺とあいつは、懐中電灯2本の明かりのみを頼りに黙々と歩いていた。
はるか遠くからワーとかキャーという悲鳴が聞こえてくる以外は、本当に山の中に取り残されたような気分になる。
ルートは約30分。要塞跡を囲むように作られた山道の途中に置かれた箱から、ピンポン球を1つ取って帰ってくる事が唯一の条件で、それ以外に何か仕掛けられているとか、脅かし役の教師がいるとか、そんなのは全くないようだった。(ほんとに肝試しか?)
俺は後ろをちらりと振り返った。
俺が歩くのか速いのかあいつが遅すぎるのか、あいつは幾分か後ろから俺の後ろを付いてきていた。
怖いのだろうか、懐中電灯は両手にきつく握りしめられ、何か物音がする度にビクリと体を震わせている。
(ちゃんと付いてきてんじゃん)
途中で泣き出して、もう嫌だーとか言うのかと思いきや、 意外に根性はあるようだ。
(まぁ、手握って引っ張ってやるとかねーけどな、絶対 !あいつ、男だし。怯えてんの、ちょっと可愛いけど。)
…ん?
(いやいやいやいやいやいや)
可愛いって何だよ。意味わからんぞ。
俺は謎な考えを振り払って、後ろを振り向いた。
「おい、もうちょい早く歩けよ。置いてくぞ」
そう声を掛けると、あいつはちょっと泣きそうな顔できゅうっと口を結ぶと、小走りで追いついてきた。
(なんか…小動物みてぇ)
目ん玉うるうるさせながら息を切らして追いかけてきて、怖くて懐中電灯握り締めてるくせに、ちゃんと付いてくる。
…俺、山の中で頭いかれたんかな。
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