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全力で突き飛ばしたあいつはそのまま
俯いていて、顔はよく見えない。
ていうか、何?何なの?
さわってもいいって、さわってもいいって
「…意味わからんし。何、おまえ、俺のこと好きなの?」
その言葉に、あいつはビクッと反応して、
小さな声で謝った。
「ち、ちが…あの、ご、ごめっ…」
「だよな。だって俺ら、そんな話したことないじゃん。だったら、何なん」
「あ、あの…その…ご、ごめ…」
さっきまで赤くなっていた腕は急に青白くなり、握り締めたボールと懐中電灯が震えている。
マジ、意味わかんねぇ…
けどこれ以上、この変な空気の中でこいつと2人きりでいるのはすごく嫌だった。
俺はため息をついて頭をガシガシとかき回した。
「なぁ、ごめん、意味わからん。…っていうか、なんか気持ち悪い。俺先戻るから、お前付いてくんなよ。1人で戻れんだろ。」
「え…」
突然顔を上げたあいつは、この世の終わりのような表情で俺を見上げた。
「帰りあと半分くらいだろ、終わる前にバレねぇようにボール持ってこいよ」
そういうと俺は踵を返してゴールに向けて歩き出した。
小さく後ろで「待って」という声が聞こえた気もしたが、俺も幾分パニクっていて早くあいつから離れたい一心だったので、聞こえなかったふりをして、ひとり早足で歩き出した。
その時のあいつの表情は分からなかった。
その日の天気予報は、夜からにわか雨が降る予定だった。
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