あの夜、始まりの夜

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side:k 俺がゴール地点に辿り着く少し前に、予報通り小雨が降り始めた。 先程まで顔を出していた月は雲に隠れてしまったようで、風が少しひやりと冷たいものに変わったのを肌で感じて、思わず身体が震えた。 「皆とりあえず宿舎に戻って、中の玄関に集合!早くしないと濡れるわよー!」 ゴール地点では既にルートを回り終えた生徒達がわちゃわちゃとはしゃいでいて、突然の雨にわーだのきゃーだの言いながら、先生の一声で宿舎に走り戻って行く所だった。 「あ、光平、戻ってきたね!あら、秋也くんは?どこ?」 ゴール地点に戻ってきた俺を見つけた担任が、手を額にかざしながら駆け寄ってきた。 置いてきた。 なんて言ったらとてつもなく怒られる気がしたので、 「いや、今一緒に戻ってきたけど。もう宿舎向かったんじゃねぇの」 なんて、思わず嘘をついてしまった。 いや、大丈夫だろ。後から来いっつったし、懐中電灯あるし、雨降ってりゃ急いで宿舎帰ってくるだろ。 「そう?なら良いわ。風邪引いたら大変だからあんたも戻るわよ。すぐお風呂入らないとね!」 担任は俺の背をたたいて走り出した。 …大丈夫だろ。 今更、実は置いてきましたなんてとてもじゃないが言い出せず、ほんの少しの罪悪感に引きずられつつ、これ以上雨に濡れるのも嫌で、俺も宿舎へと走り出していた。 宿舎に戻ってすぐ、男女それぞれに分かれて風呂タイムとなった。林間学校の宿舎にしてはかなり大きな造りの大浴場が2つあり、一度に全員が入れてしまうものだから、なんというかもう怪獣だらけの、それは騒がしい時間になった。 シャワーの飛ばし合いに泡攻撃、湯船でバタ足する奴もいれば飛び込む奴もいた。石鹸で転ぶベタな奴も。 俺も友達とどちらが長く湯船で息を止めていられるかを競い、最後は数人で沈め合いの合戦になった。 最後はのぼせてしまった程かなり長時間風呂で遊んだ後、湯船を出て布団の敷いてある2階の大部屋に戻る頃には20時半を回っていた。 これから22時の就寝までは自由時間で、怪獣が更にパワーアップするお楽しみタイムの始まりだ。 「すまん、俺、ちょっと途中参戦」 俺もすぐに枕投げに参戦しようと思ったが、風呂ではしゃぎすぎた為か喉の渇きが酷く、休憩がてら、1階の給湯室に用意されているお茶を飲みに行く事にした。
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