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桜も終わりを迎え、過ごしやすい暖かさと心地好い新緑の香りを風が届けてくれる。
そんな季節にもかかわらず、ある庭先ではまるでそこだけ真夏の炎天下の如く…熱のこもった一戦が繰り広げられていた。
とは表現したものの、現実は少々様相が異なってたりする。
正確には“挑戦者”だけがほとんど一方的に闘志を燃やし、それを受けた“熟練者”は飄々と余裕をもって相手をしているのだ。
というよりも、正直遊ばれているだけにしか見えないし、実際遊んでいるのだけど。
挑戦者と熟練者の間にはそれだけの確かな差が在るのだから。
それでも。挑戦者は諦めないし負けられない。負けるわけにはいかないのだ。
なぜか。理由は単純で明快。
勝てば得るものがあり、負ければ失うものがあるから。
だから…挑戦者は心を燃やし、頭を働かせ、目を血走らせ、遮二無二その腕を振るう。
乾坤一擲。起死回生の一手を狙い、放つ為に。
だが、だけどーー
「王手。ついでに飛車獲りじゃ。」
「うぎゃうっ!?ちょ、まっ、タンマ!なし!それは堪忍してぇ!」
ーー届かない。
「駄目に決まっとろうが。こっちは飛車角落ちじゃぞ?観念せい。投了か?それとも飛車を寄越すかの?」
それでもーー
「ぐぐぐぎぎぃ…おのれぃ、桂馬あぁぁぁ!この恨み晴らさでか…っ!持ってけ泥棒!それでも俺は勝つ、勝ってみせる!」
ーー挑戦者は諦めない。例え仲間を犠牲にしても。
「ほっ。意気は良し。んではの、遠慮なく。飛車いただきじゃ。」
だがしかしーー
「ぐぐっ…ふんっ。見てろよ?じいちゃん。ここからだっ!ここから俺と角による怒濤の反撃がーー」
バチッ!
「すまんのう。孫よ。意気込んでるところ悪いがの。これで詰みじゃよ。」
パチッ。
「ーー始ま………はっ?
えっ。
…貴様は飛車っ!!?
そげなバナナ!
なんで…なんでなんだ…飛車よ。
それじゃ俺の…俺の…。」
「あっ。まるっとバナナ食べたいのぉ。ばあさん。今日のおやつはもう買ったのかのう?
まだ?なら、まるっとバナナ買ってきてくれんか?そうそう。バナナとクリームをまるっとスポンジケーキでくるんだアレよ、アレ。
金は…ほれ、1000円で足りるじゃろ。」
ーーやはり未だ届かない。そして知るのだ。
「それ俺のお小遣いぃぃ!俺の賞金ンンンン!
イヤアアアアア!行かないでぇ!ばっちゃああああん!!
カムバーーーック!俺の小遣いーーー!」
失う悲しみを。
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