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そんないつになく真剣な面持ちの孫の姿を見て、満足げな顔で軽く頷くと言葉を紡ぎだす。
「まず儂はこの世界の生まれではない。儂はこことは別のーー。」
自身の事。魔力というもの。なぜ自分に勝てなかったのか。そしてどうしてこんなことをする必要があったのかを。
それは孫にとってただただ驚くばかりで、しかし納得してしまう内容だった。
「はああぁ…。現実は小説より奇なり、とはいうけど…まさかこんな身近で、というか身内がファンタジーな存在とか。」
話を聞き終わり、一応様々な事柄を理解したものの頭を抱え踞る孫。
「ズズッ。信じられんか?」
そんな孫を眺めつつお茶を飲みながら尋ねる祖父。目尻にシワを寄せ向ける瞳は悪戯っ子のようで。
どうやら答えをわかって聞いているようだ。
意地の悪いことである。
「いや。むしろ色々納得。まるで先が読まれてるかのように成す術もなく負けた将棋といい、そんな細身で見た目弱々しいくせにぶちかまししてみればまるで大木か岩みたいな頑強さに、70過ぎた老人とは思えない馬鹿げたスタミナといい。
その魔力ってのを使ってた、と言われれば納得しちまうよ。
…急須がひとりでに勝手に浮いてお茶ついどるし。なにそれこわい。」
「中々便利じゃろ?で、どうする?行ってみるか。異世界。」
そんなちょっとコンビニにでも、と気軽な感じで爆弾を落とすじい様。
「いや、いやいやいや。確かに魔力とか異世界とか興味あるし、じいちゃんにこのままじゃ一生勝てないのも、嫌だし悔しいけど。
俺、一応学生だし?なんか話を聞くに危なそうだし?そもそもそこまでしてーー。」
「あ、ちなみに拒否権はないぞい。」
「え。」
色々理由をつけてごねる孫。だがしかし、それをぶったぎり告げられた突然の強制宣言に思わず固まってしまう。
「お前の力は見せてもらったからの。素の能力で脳と体を魔力で強化した儂とあれだけ張り合えるなら十分資格有りじゃ。」
「は、え、や、ちょっ、資格?何言って…。」
「簡単じゃが向こうの説明もしたしの。あ、そうじゃ。向こうでの生活は心配いらんぞ?話は通してあるからの。」
「だから何をーー。」
「ちょっと儂の代わりに異世界で悪竜討伐してきてくれんかの?」
「んなっーー!?」
反論も拒否も一切許さず何やら恐ろしげな発言をし、指をパチンと鳴らすじい様。
するとなんの前兆もなく地面に開く黒い穴。
それは、孫の足下真下で。
瞬間。理解した。
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