第1章

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「あとであんたの予定、教えて。僕のはスケジュールボードに書き込んでおくから。はい、決まりー」 「勝手に決めるな」 「だって慎一郎、君は自分のこととなると何でも後手で、保守的で遅いんだもん。第三者がケツ叩かないと人並みに動かない。秋良ちゃんとのことも、俺たちのおかげで今があるようなもんだろ」 ぐっと言葉に詰まった。 秋良に見合い話が出た時、二の足を踏む慎一郎の背中を叩いて後押ししたのはカルテットの三人だった。旧友達が言う「後悔するぞ」は骨身に染みた。 「感謝してよね」 さあ、仕事仕事と、宗像はまるで自分が部屋の主のような顔をして作業に没入していく。 慎一郎は仕方なく、埃被って満足に使われていないホワイトボードを拭き、今日の欄に予定を書き込んだ。 午前は講義。午後は丸々空いている。もしかしたら秋良が立ち寄るかもしれない。 食事にでも誘うか。水流添家へ寄るか。 ――外食だ。間違いなく。 「私はこれから講義だ」 「うん、行っといで。留守はまかせて」 「長く席を立つ時は鍵をかけろ。合い鍵を手配しておく」 「大丈夫、もらってある」 ちゃらり、とキーケースを振る宗像に、手回しだけは良い奴だと呆れて、彼は部屋を後にした。 そういえば。 今朝は三浦も彼女の息子も来なかったな。 たまにはこんな朝も悪くない。 慎一郎は廊下を往く。彼の断髪をまだ知らない学生や関係者の好奇な視線はあっさり無視して。
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