妻と会っていたのは……

5/8
前へ
/90ページ
次へ
 香代の実家は他県で、この近所に知り合いは少なかった。若い男の知り合いがいるようには思えなかった。会社の同僚というのもありそうにない。事務職の香代が会社の用事で同僚と外を、しかも会社から1時間もかかる家の近所をいっしょに出歩く可能性はほとんどないはずで、そもそもあんな垢抜けた服装が同僚というのも無理がある。では、どこかの店の御用聞き?――そうだろうか?  雄哉には、横を歩く男が何者なのか、とんと見当がつかなかった。  そこで後をつけることにした。気づかれないよう、三十メートルほど離れて歩く。親しげに話す香代の声は聞き取れない。  駅前から住宅街へ続く夕方の道をこそこそと尾行しながら、雄哉の心に黒い疑念が産まれた。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加