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灰色の濁った空がただ、私を見下ろしていた。
立ち並ぶビルやマンションの森で、私はひとり、途方に暮れていた。コンクリートの隙間を縫うように吹く風が、長い髪を顔ぜんたいに巻きつけ、いたずらっ子の顔つきで、舌を出すように立ち去っていく。もう十五分近くもこの辺りをうろついているというのに、まだ目的の場所は見つからない。足元からは、地中で冷やされた空気がこんこんと立ち昇って、薄手のコートでは少し肌寒い。もうすぐ十一月も終わりだものね、と溜め息をつきながら、手にしていたガラケーを恨めしく見つめた。こんなことなら、パソコンで検索したときに、ついでに地図も打ち出しておけばよかった。
目の前に、外壁が汚れたみすぼらしいビルが建っていて、一階には不動産屋のテナントがいくつも入っている。大きな大学が近くにあるので、手ごろなアパートを紹介してくれる店がこの街には数多い。和哉さんと結婚したときに、今住んでいるマンションを勧めてくれた店も、たぶんこの界隈にあったと思う。
うろ覚えの頭の中をさんざん引っ掻きまわし、迷い迷った末に、この古いビルに入ることにした。確か二階だったよね、と独りごちながら、じめじめと暗い、地下鉄にあるような階段を、探るように登っていく。共用廊下には、ぶあつくて冷たい感じのドアが不機嫌に並んでいたけれど、一つだけ細長い看板が縦にかかっていたので、あそこかしら、と顎に手を当てて考えた。ちょうどその前で男の人が立っていて、ドアを開けようとしていたけれど、私のことに気がついて振り返った。彼の、男性にしては大きめの瞳に射抜かれてしまい、まだ訪ねる決心はついてなかったというのに、思わず私は、
「ここは占いの館ですか?」
と尋ねてしまった。彼は、大きな目の縁をさらに広げて、
「占いの館ではないけど、ただ、考えようによってはそれに近いかもしれないです」
と小さく呟き、さらに、
「ここを訪れる人は皆偶然にやって来るのではなく、必然があって来るのですから」
と力強く断言した。どことなく哲学的な響きが、心地よい風のように、真っ直ぐ私の体の芯を突き抜けた。
「では、少しお話を聞いてもらおうかしら」
気がつけば、私はこう答えていた。
いつも自信なさげだね、とか、優柔不断だ、と人に指摘されてしまうことが多いというのに、不思議とこの時ばかりは即決していた。必然というのは、おそらく
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