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こういうものなのかしら。
彼の後ろを従うように、部屋の中に入ろうとしたとき、看板に書かれた『あなたの住まいをお探しですか』という文字が目に飛びこんできた。近視のくせにメガネやコンタクトを嫌うので、さっきは読めなかったけれど、一体ここは何屋さん? 本当に相談に乗ってもらえるの? と一気に不安が、小さいあぶくのように次々と湧きあがった。ただ、今さら踵を返す、というのも、目の前のこの男の子に余りに失礼だから、このまま足を踏み入れるしかなさそうだわ。覚悟を決めた私は、とりあえず話を聞いてもらうことにした。
若くて初対面の男の子と、これから密室で二人っきりになるというシチュエーションは、この上ない緊張感で心をあふれ返らせた。どこか覚束ない足の運びで、未知の一歩を踏み入れる。狭い部屋にはスチール机とその椅子、小さな布ソファーがあるだけで、意外なくらい殺風景だった。ベッドが置かれていないことに安堵しながら、何の心配をしているの、この子に失礼でしょう、と素早く反省しつつ、それでも何かあったらどうしよう、と揺れる心を持て余していた。彼は淡々と私にソファーを勧めると、無造作に、本当に何も考えていないというふうに、ドアをきつく閉めた。その力強い音に、なぜだか私は、かえって、羽毛にくるまれるような安心をおぼえていた。
「今日は占いの館に来るつもりでここに来たんですか?」
彼は、椅子に腰かけるとすぐに、口を開いた。
私は、はい、と目を伏せた。真正面から見る彼の顔は、鼻梁の形が素晴らしくて、意外なくらい整っていたけれど、着ているグレーのトレーナーはいかにも安物という感じの、野暮ったいものだった。下には、白いポロシャツを着ている。
「でも、間違っていたようですね。ここは何のお店なのですか?」
彼は机の引き出しから一枚の名刺を取って、差し出した。
『あなたの住まいをお探しですか
コーディネーター 新庄 豊』
受け取ったそれを、しげしげと私が眺めていたら、逆に新庄さんから、
「名刺をお持ちでしたら、僕ももらっていいですか?」
と頼まれた。私は自分でもわかるくらいに、頬を染めながら、
「ごめんなさい。私、結婚したばかりで、今は働いていませんので」
と口にした。つられたように、新庄さんも耳を赤くしていた。
「ではこの用紙に名前など、記入していただけますか?」
言われるままに、差し出された
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