第二章  あおい ~思惑はずれな新婚生活~

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そのまま白骨化しちゃえばいいと、自己嫌悪が、どこまでもどこまでも、止まらなかった。  布巾でお皿をふく手が、気がつけば止まっていた。  このところ何かを言おうとしたとき、何かをしようとしたとき、ふと考えこんでしまうことが、とても多くなってきているように思う。お皿を食器棚に片づけると、私はキッチンカウンター越しに首を伸ばし、リビングで和哉さんが、くつろいでテレビを見ている様子を、そっとうかがった。今は話しかけても、大丈夫かしら。  先日も、彼が仕事から疲れて帰ってきたときに、昼間お義母さまから電話があったと伝えてから、 「話したいことがあるとおっしゃってたから、また電話してあげてね」  と言ったら、彼の顔色が一瞬で険しくなっていた。どうかしたのかしら、と驚いていると、 「それって、急ぎの用なの?」  と低い声で、何かをそぎ落とすように、聞き返してきた。 「それは、特には聞かなかったけど……」  と私が答えると、和哉さんはへの字にした唇を、さらにゆがめた。 「それくらい聞いておいてね。僕だってくたびれて帰ってくるわけだから、急ぎの用でなければ電話を明日に回すことも可能だ。けど、きみがその点をちゃんと聞き出さないから、どんなに疲れていても今晩電話をしなければいけなくなる。僕は常に合理的に動きたい人なんだから、もう少し色々と考えて気を回してくれよな。全くあおいは気が利かないんだから」 「……ごめんなさい」 「主婦はお気楽でいいよな。気配りが抜けていようが、家事が中途半端であろうが、ごめんの一言で済ませられるんだから」  私はひたすら、平謝りを繰りかえしていた。  和哉さんは機嫌の悪いとき、語尾にとても力がはいる。貧乏ゆすりをする。口もとに手をやる。下唇をかむ。スマホをぎゅっと握りしめる。彼に対して声をかけるときは、うっかり地雷を刺激することのないように、これらのチェックポイントをけっして私は、見落としたりはしない。居間のソファーでねそべりながら、テレビを見て笑っている今の表情からは、そのような影はみじんも感じられない。ようやく話しかけようと口を開いたら、 「おい、ビール!」  と逆に声が飛んできた。私は急いでビールとグラスを冷蔵庫から取りだした。彼の帰宅する時刻からさかのぼって、六時間前には冷やしておくように、と言われているので、朝はかならず冷蔵庫のなかを確認しておく。
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