侵食の体温

30/31

3380人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
「茉歩、肩借りていいか?」 タクシーに乗り込むと。 そこで専務の精神力スイッチが切れたようで、苦し気な姿が露わになる。 「はい、楽な姿勢をとって下さい」 私の返事を聞くと同時。 「痛(つ)っ…」と顔を歪めながら、その身体が寄り掛かる。 多分、痛み止めもあまり効いてなかったんだろう。 「握ってて、…いいか?」 トンと触れた、専務の左手が… そのあと私の右手を、ぎゅっとした。 「……いいですよ」 私もその手を握り返す。 こんな時なのに。 この胸は、専務の熱い体温に反応してて… 気を緩めたら、心がその熱に溶かされてしまうんじゃないかと思った。 ふと。 ー「ちゃんとやり遂げたら、 茉歩に撫で撫ででもしてもらおうかな」ー 思い出して… 思わず伸びた左手が、専務の髪に絡んだ。 そこをそっと撫でると… 何故だか愛しさが込み上げてた。 頑張った専務に、その弱った一面に、 そして肌を侵食する体温に…
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3380人が本棚に入れています
本棚に追加