藍砥茶(あいとのちゃ)

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「本当に今日はありがとう」 帰り道に友人の一人が声高らかに口を開いた。 さっきまで居た居酒屋はもう振り向いても見えない。 女3人で早々と立ち去った飲みの席は割と早い時間に幕が下りた。 「まさか年下が来るとは思ってなかったわ」 「一人は私の幼馴染だったけど、もう二人はどう見ても学生でしょあれ」 何となく始まった飲み会は友人の幼馴染がどうしてもと企画されたものだったらしい。 美味しいお酒と食べ物があればそれでいい、そんな感覚で参加したのも原因かもしれないがこれと言った収穫は勿論何もなかった。 「しかし、笑ったなー。怜の態度」 「何、普通だったでしょ?」 「普通ではなかったよ、だって携帯忘れたふりて嘘の番号教えてたでしょー」 「私の番号記憶してるの?何それ私の事大好き過ぎ」 酔った足取りは真っすぐ歩くことを許してくれない。 周りの目なんて気にしないで大口開けて笑ってる私達の声。 背丈や服装が似たり寄ったりな私達3人は皆が皆、先の飲み会の事なんてもうネタとしか思っておらず、その話で憂さを晴らす様に喋り続けた。 「実際鞄の中で携帯鳴ってたっつーの」 「嘘!?音出てた?」 「いや、マナーモードだからバイブだけかな」 「そうそう、ブーブー煩いのなんのって。まぁ、前に座ってた3人の方が煩かったけど」 嘘に嘘の上塗りをして教えた連絡先は私には届かない。 届いたとしたら、それは全くの事情を知らない誰かなのだろうけれど、その番号が使われている確率は半々だ。 もしも、使ってる誰かが居た時は申し訳ないが、自己防衛として完璧に諮られた策略は隣に座っていた友人以外にはバレていない。 「後日、怜の番号が繋がらないって言われたら私どうすればいいの?」 「適当に流しといて、幼馴染でしょ?」 「そんなぁ、面倒だよ」 ヒールの歩く音が3つ。 大きな通りをひたすら進み、それぞれが乗る駅に順番に辿り着こうとしていた。 「あーあ、明日仕事じゃなかったら飲み直したのにな」 「私もー。怜は休みだっけ?」 「まぁね」 飲み会のネタから文句に変わり始めた頃には酔いは少しずつ醒め初め、時折吹く風に寒さを感じた。 醒めた酔いに、度々後ろを振り返ってはさっきの男達が付いて来ていないかを確認し、見知った顔が無い事にホッと胸を撫で下ろした。
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