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炎天下の中で考えるには無理があった。
少なくとも無理だと吐きせ捨て諦めるが得策の現状に声が出ない。
母を責めたくてもそれは違う事も分かっていた。
だから、きっと。
「お母さん・・、諦めないで」
だから無責任な事を言ってしまったのだろう。
どうにもならない事は、どう足掻いてもどうにもならない。
頑張っていれば報われるなんてそんな綺麗な言葉なんていらない。
「私が、何とかするから」
「怜!あなた・・」
「変な事はしない、でも何とかしたい」
どうすればいいかなんてこれから考える事。
答えが出るかは分からない。
けど、ここは私が生まれて育ったたった一つの家だから。
温厚な母に、厳しかったけど子供が大好きだった父に囲まれて育った場所だから。
「心配しないで・・私が全部守るから」
母はもう、自身が間違った道を歩こうとしている。
それは全てを諦めて悔しさに涙を流しながら下を向くだけ。
それなら、立って歩けるのが私だけなら、この足が壊れるまで歩けばいい。
折れても挫いても私しか動けないのであれば、一本でも歩いて見せよう。
「泣かないでよ、大丈夫。お母さんの悲しむことはしない」
しゃがみこんでしまった母は大きな声を上げて泣き喚いた。
本当は大丈夫の言葉と共にその身体を抱きしめてあげたい。
でも、まだその肩には触れることが出来なかった。
「れ、い・・怜・・」
「お母さん、誰の子供だと思ってるの?」
立ったままの私はしゃがみこむ母を上から見下ろしながら必死に明るい声で話しかける。
その顔は母に見えていないと分かっていても無理に口角をあげた。
「お父さんはもっと怖かったもの」
サァと音を立てて揺れた加賀紅がその風に耐えられず数枚の葉を落とした。
足元に舞い落ちてきた葉は、子供の掌そっくりだ。
このグラウンドで笑うのは私達だけではない。
「お父さんは、きっと負けない」
もう居ない父の存在を思い出しては、言葉を紡ぐ。
思い返すだけで泣きそうになるのを唇を噛み締めて耐え忍んだ。
泣くことは子供がする仕事だと、泣いていいのは嬉しいときだけにしろと言われた言葉は今でも鮮明に覚えている。
「泣いちゃだめだよ・・お母さん。泣くのは、嬉しい時だけ」
本当は声を上げてしまいたかったのに。
雨でも降ってくれればよかったのに。
そうすれば全部隠れて泣いても誰にも気付かれなかった。
かも、しれないのに。
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