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「ちょっと・・何、す」
引っ叩いた方の右手を掴まれ引っ張られた。
よろめく体が結城の体にぶつかる様に倒れるのを止める。
高く高く引っ張り上げられた手首はビクともしない。
「詰めが甘いんじゃない?」
「離してよ!」
「そんなんじゃ何も守れないよ」
「うるさい!貴方に何が、何が分かるっていうのよ」
知った様な口をきく結城は私の体を引き寄せるだけでそれ以上何かをする事はなかった。
歩道にある木陰で道歩く人が私達を見ながら何かを話している。
少し力を入れて手を引いてみても、その動きを悟った結城がさらに力を込めるだけ。
そして、次に聞こえた言葉に目を大きく見開く羽目になった。
「全部、知ってるよ」
「・・な、」
すっと抜けた力。
感じた寒気は間違っていなかった。
ただ知ってる人に会いたくなかっただけで感じていた身震いは、知りたくない自分の勘の良さを予知していたのかもしれない。
あの時、手が震えたのは警告だったのだろうか。
「怜さんがお金を必要としている理由も、その額も、全部知ってる」
「どう、して」
「さあ?どうしてだと思う?」
怖い。
真っすぐ捉えるその目が、怖い。
逃がさないと言われているような強い力に男の怖さを見る。
そして嫌なストーリーが頭の中を駆け巡った。
考えたくない架空の物語なのに、勘ぐった心はそれを否定するわけでもなく不安だけを募らせていく。
「まさか・・」
「違うよ、怜さん達を騙した業者は俺の会社じゃない」
「全部話してよ!!どうゆう意味!?」
「自分は話そうとしなかった癖に、俺には話してって言うんだ。」
反対の手で掴みかかった時、その衝撃に驚いた結城が小さく声を漏らして私の体を支えた。
取り乱した私に見えているのはその真実だけを語る口だけ。
でも聞こえた声は真実でも、優しい言葉でもなく、妙に冷たい声。
「それって無責任じゃないの」
言われる事に対して反論する言葉が出て来なかった。
正論を聞いても尚、高ぶった感情を抑え込めない。
立って歩くには準備が足りなさ過ぎた私は、目の前の結城に太刀打ちすることができない。
「知ってるなら話す必要ないじゃない・・」
「等価交換って知ってる?」
「私に何かしろって言うなら、馬鹿な考えよ」
「はぁ、まあいっか。話してあげるよ」
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