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キッと睨み付けた私の目を見て結城が折れる形で掴まれていた手首が離された。
仕方ないと言うかのように溜息交じりに聞こえた言葉は、多少なりとも癪に障る部分はあったが、今はそんな事に腹を立てている場合ではない。
「そのかわり、条件付けさせてよ」
「条件?」
「この話は、俺の家でしか話さない」
徐に結城の指が私の唇に触れた。
数秒押えてすぐ離れた指は感覚だけをその唇に残す。
そして、家に行くことを条件に出された話に素直に付いて行こうと思えない心が反発する。
「・・帰る」
「いいの?家、守れるかもしれないのに」
「胡散臭い」
「まだ公にできないビジネスの話だからね、公共の場で話したくないだけだよ」
呈の良い言い訳だと思ってしまえばきりがなかった。
結局男と女なんて何を考えてるか分かってるようで本心を分かり切れていない。
口では幾らでも正当化できることは身をもって経験した。
あの私達をどん底に落とした男達も同じだった。
「やましい事なんて、何一つないでしょ?怜さん」
「貴方、・・真っ黒ね」
「さあ、でもきっと怜さんの為になるよ」
「それは、ビジネスとしての言葉?」
「怜さん次第だと思うよ、俺も一応平和に生きて来た人間じゃないからね」
これ以上どこに行ったって現状を解決させる打開策なんて見つからない。
渡れなかった横断歩道は渡らなくて良かったのだろうか。
渡っていたら変わってたかもしれない今の時間も考えるだけ容量の無駄だと思う。
それなら、少しの光が見えるこの手を取ってしまう方が賢明なのかもしれない。
「分かった」
一つの条件と共に見えない解決策を提示する結城の顔は、薄く笑っている。
その笑みを全部信じていいかなんて分からないけれど、今の私には信じるしか道がないのは確かだった。
そんなんじゃ何も守れない、言われた言葉が何度も頭に響く。
そんな事分かってた、言われなくたって分かってた。
図星だったから私は声を荒げたのだろう。
「・・行くわ」
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