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「お邪魔・・します」
車が連れて行ったのは見覚えのある大きな家。
玄関なる場所を抜けたはずなのに靴はそのまま。
扉を一枚通れば、真横が壁に囲まれた数メートルの廊下が広がり、また一枚扉が見えた。
ガチャと結城の手で開けられた扉は、二度目の玄関を見せる。
本当に変な創りの家だ。
一段高い室内をぼんやり眺めて、入るよう促されると背を押されそのまま足を踏み入れた。
「何か飲む?」
「いらないわ」
「のんびりする気はないって事か」
靴を脱いで上がった部屋、足裏に伝わる床の冷たさを感じながら二つの扉を通り過ぎてリビングに入った。
飲み物の有無を聞きながら結城はキッチンへと足を進める。
靴だけを置き去りにし、上着も脱がず鞄も置かない私は何よりも先に事の真意を聞き出したかった。
閉められたリビングの扉。
見えるソファーにも座らず、立ち尽くしたままの私を見て結城が悟った様に口を開いた。
「座ったら?」
「ここで十分な筈よ」
「真面目というか、なんというか」
「早く話してよ・・条件はもう満たしてるでしょ」
結城の自宅でのみ話すという条件はリビングに居る時点でもう満ちている。
それが立っていようと、ソファーに座っていようと変わらない。
コポコポと音が聞こえ、珈琲の香りが鼻を掠めている時間さえも今は惜しい。
こちらを見ず、手元の珈琲メーカーを動かす結城の口元は少し上がっていた。
「怜さんさ、あの幼稚園がそんなに大事?」
「当たり前でしょう!あそこは・・お父さんが大切にした場所だもの」
「そう、だから必死になれるんだね」
「私にとって家族も幼稚園もこの身削ってでも守らなきゃいけない存在なの」
泣きだしそうになる感覚を押し殺して言葉を紡ぐ。
言うだけタダな言葉は重たい様に聞こえても、現実問題なんの解決にもならない。
結城が二つのカップを持ちながらキッチンを後にし、私の前を通ってソファーに座った。
音を立てて置かれた二つのカップは湯気が立ち、絶妙な距離を取ってテーブルに置かれた。
「身を削ってねぇ・・」
「話してよ・・ねぇ、知ってる事話してよ!」
「あまり女の子がそんな事言うもんじゃないよ」
「いいから!!そんな事、どうだって・・っ」
ソファーに座ってこちらを見る結城と、リビングの入り口に立ちいきり立つ私。
静まり返った部屋に私の大きな声が響き渡った。
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