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数分の沈黙が静まる空気を徐々に冷やす。
どっちが先に口を開くか、私が急かすか結城が真実を話すか。
どっちが先でも互いは互いのポリシーを譲らない事は分かっている。
利害関係がある事も良く分かっていた。
「分かったよ、話すから取りあえず座りなよ」
「・・・」
「怜さん、聞こえない?座れって俺は言ったんだよ」
意地の張り合いが結城の低い声で幕が下りる。
陽気な雰囲気を全部掻き消して、油を引いたようにギラついた眼が真っすぐ私を捕らえた。
一回だけ高鳴った鼓動はどんな感情を表したのだろう。
恐怖、警戒、怯え、どれも結城に抱く事に違和感を覚える感情ばかり。
「・・わかったわ」
「うん、いい子」
ぎゅっと握った鞄の柄には滲んだ汗が染みついていた。
爪が掌に食い込んでしまうほど強く握りしめられた手はその痛みさえも踏み出す足の原動力に変える。
その場から数歩で着くソファーは一歩がとても重たく感じた。
握りしめた鞄をそっと離し、床に置きながら腰を下ろすと一連の動きを監視するように見届けた結城がまた陽気に戻った。
「何から話せば上手く伝わるかなー・・」
「全部最初から話して」
「ここまで連れてきて聞くのはおかしいけど、怜さん・・真実を知る覚悟はできてる?」
「そんな覚悟、とっくの前にどっかに捨てて来たわ。時間も手段も残ってないの、覚悟とか言ってる場合じゃない」
テーブルの上のカップがゆらゆら湯気を上げるのを呆然と見つめながら、うわ言を言う様に声を出す。
唇が動く感覚が鮮明に伝わり、呼吸が無意識に浅く荒くなるのがよく分かった。
肩が上下に動くのはきっと心拍数が上がったまま下がらないからだ。
「いいね、その強い脆弱さ」
「馬鹿にしてるの?」
「いいや、そうじゃないよ」
首だけ動かして結城を見ると、結城の体は少し斜めに置かれ私の方に向けられていた。
テレビも点けられない部屋で響くのは私の声と結城の声だけ。
今は鳥の鳴き声一つ聞こえてこない。
空調がしっかりされた部屋で不釣り合いな鳥肌が全身を覆う。
体温は下がり始めているのに、沸き立つ感情は沸点を越えそうな程上がり切っていた。
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