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「怜さんの幼稚園を買収しようとしたのは、高梨建設っていう中小企業だよ」
ふっと笑った結城がやっとその重い口を割った。
鼓膜が全部を聞き逃すまいと小さく震え言葉が入ってくる。
僅かに寄った眉が眉間に皺を作ったのを感じた私は、ただただその声を理解する為だけに意識を集中させた。
「ちょっと荒っぽい会社でね、今まで同じ手口で土地を買収してきた会社」
「・・・」
「まぁ、その買収した土地を別の会社に売って大型商業施設とかに利用してたみたいだけどね」
「私の所も・・そうだった」
今でも忘れられないグラウンドに作った三つの足跡。
真っ黒なスーツをきた三人の男たちの顔とニヒルな笑みは頭から消そうにも消えてはくれなかった。
軽い口調で話す結城は一度だけ珈琲を啜って、大きく息を吐いた。
「そして、その会社を丸ごと買収したのがエクリプスって会社なんだけど知ってる?」
「知らないわ」
「正式にはEclipse Tradeって言うんだ」
「その会社がなんだって言うの?」
「エクリプスって月蝕とか、日蝕って意味。蝕む、喰らい尽くすっていう意思を持って名付けた」
伸びた背筋に、さらに筋を張る様に力が入った。
ふんわり笑ってる筈の結城の顔は二面性を隠し持ち、決して安心しきれる表情とは思えなかった。
次に聞こえる言葉を予想することはできなかったけれど、こうゆうときの勘は怖いくらいに当たってしまうものだ。
「俺の、会社だよ」
「な・・、」
「俺の会社が高梨建設を買収した、どういう意味か分かる?」
「だって、貴方の会社は貿易の・・」
「そう、全く無関係の業種だよねー、買収にあたってうちの利益はまだ不透明なまま」
伸びた背筋がピリピリ悲鳴を上げ始める。
丸めて、背もたれにもたれ掛れれば楽なのに、一度それをしてしまうと張り詰めた気が戻ってこないような気がして力を抜くことができない。
膝の上で握られた手がまた痛みを上げて強く握りしめられる。
「買収が決まったのはつい三日前だよ。まだ世間には公表していないけどね」
「どうして・・」
「ん?俺さ、嫌いなんだよね。狡賢いやり方しかできない奴らが」
「そんな理由で?」
「そうだよ、でも俺にとってはメリットがあった」
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