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爪が食い込んだ掌が赤く色を付け始めた。
そしてメリットと称された利益が結城の口から零れる時、不意に温かく伝わった体温。
強く入った力をそっと抜くようにその掌は私の指の間を割り込んでくる。
そして左手を掴まれクイッと引かれれば、膝と一緒に身体が結城の居る方へ動かされた。
「怜さんを縛る事が出来る権利を、俺は手に入れたっていうメリットがね」
掴まれた手が結城の口元に当てられる。
掌の柔らかい部位にその唇が押し当てられると、一度伏せられた目がそのまま開かれ私を見た。
ゾクゾクと走った電流みたいな刺激に手を引こうと体を引くも、薄く笑うその顔がそれを許さない。
「離して・・!」
「怜さん、選んでよ」
離れた唇がゆっくり動く。
掌に残された感触が消えないまま、私の手は宙を足掻いた。
そして一瞬だけ緩まった結城の力を見逃すことなく手を引くとあっさりその束縛から逃れた手と共に、結城が距離を詰めた。
「俺のものになってくれるなら、背負った借金は帳消しにしてあげるよ」
「ふ、ふざけないでよ!」
「でも、もし断るのならば・・この口が言った身を削る方法を取ってもらう」
「・・何させる気?」
「それは選んでから教えてあげる」
詰められた距離がさらに詰められ、結城の顔が私の顔を通り過ぎて耳元に吐息をかけた。
吹き込むように言い渡された選択肢に損得勘定は存在していない。
ただただ、結城のメリットだけが込められているだけ。
「背負うものが変わるだけだよ」
「お金か、体かって訳?」
「そこまで深刻にならなくていいよ、俺は怜さんが手に入ればそれでいい」
「なんで・・」
覚悟なんて捨てていた、何をしてでも守るって此処に来る前に決めたその時からすでに薄っぺらい覚悟なんて無くした筈なのに。
迷ってしまった返答には自分の意思がめい一杯含まれ、何故と無意味な事を言ってしまう。
耳元から離れた結城が私の頬に手を滑らせる。
男の人の関節が角ばった硬い指が顎元をなぞり、そのまま髪の毛を梳いた。
「俺ね、手段は選ばないやり方しか知らないんだよね」
「そうじゃなくて」
「意味を知る必要なんてないんじゃないの?」
「それは・・」
「選ぶのは二つに一つだよ、他の選択肢はない」
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