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「私は貴方が分からない・・」
ころころ変わる結城の白と黒。
無邪気かと思ってたら、いきなり脅威になり、今度は綺麗だと思う。
どれが本当かと聞けば、きっと全部本当の結城だと答えるだろう。
分からないまま交わした契約というビジネスも結局は私にとって不利益さが何も感じない。
「分からなくていいよ」
「・・・どうして?」
「分かってもらおうとはしないさ、俺の中身なんて大した事ないしね」
何も分からないまま一つ屋根の下で異性と暮らす。
身の危険だって勿論感じている。
結城が虚しいと言ったって所詮男と女、どこで間違えるか理性が切れるかなんてわからない。
信用もない、信頼もない。
信じてとも言わない、分からなくていいとまで言う。
「恋人ごっこはしなくていいって事?」
「うーん、どうしよっか?」
「私が決める事じゃないわ、それに・・」
「それに?」
「私も、分かってもらわなくていいと思ってる」
ごっご遊びなら縛られてる間幾らでも付き合おう。
キスだってするし、その欲望にも応えて見せる。
でも、それを“好き”と勘違いだけはしないでほしい。
勘違いしてしまった時、きっと言ってしまった虚しさを大きく感じてしまうから。
「貴方が思ってるより綺麗な女じゃないわよ私」
「いいねぇ、違和感を全部受け入れたって感じが出て来たんじゃない」
「違和感なんてこの屋敷に入ったときから感じてるわ」
「じゃあ、こうしよっか」
淹れてくれた珈琲はミルクが固まって少し白っぽい塊が表面を泳いでいる。
飲む気にもならないソレが入ってるカップの柄に指を掛けると、たっぷり入れられ重たいカップをそっと持ち上げた。
その間にも結城の言葉が耳を通り抜ける。
唇に触れた液体は生暖かくて不快感を煽った。
「怜さんは今まで通り幼稚園に行く傍らで俺の身の回りの事を全部やってもらう」
「それはさっき聞いたわ」
「ここからが追加事項、夜寝るのも一緒、起きるのも一緒。勿論ベッドも一緒。そもそも一個しかないからね」
「・・・そ、そう」
ぽつぽつ聞こえてくる声に少しどもった返事を返すことしかできない。
それは次どんな要求が来るかを緊張しながら聞き待っていたせいだった。
「でも、重要な事を一つだけ」
「・・な、に?」
「俺が怜さんにするのはキスだけ、それ以上は何もしない」
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