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ピタッとカップを傾ける動作が止まった。
キスという単語に反応してしまったのも事実だが、その後に続いた言葉に不信感を抱いてしまったのもまた事実。
「え・・」
「キスはさせてもらう、だって折角手に入ったんだもん勿体無いし」
「ちょっと・・何言ってるか、」
「分かってるよ。キスして同じベッドで寝て、でもエッチはしない。凄いプラトニックだよねー」
単純だと思っていた男心に結城の言葉は突拍子もなく、正直言って驚いた。
プラトニックと笑う結城は無邪気な結城だ。
その目は本当に笑っている様に見える。
「男の人でプラトニック求めるなんて高校生くらいだと思ってた」
「今時なら高校生の方が官能的かもよ」
「欲がないのね」
「いいや、欲の塊だよ俺は」
体の負担が無いのであればそれはそれでいい。
むしろ私にとってメリットになる。
それでも、関係のない会社を買収してまで私という存在を縛り付けた結城が言うには矛盾を感じてしまう。
本当にただのオブジェにするつもりだろうか。
「手に入れたいものはどんな手段も選ばないって言ったでしょ」
「でも、それは手に入れるだけで満足する欲なの?」
「どうだろうね、加虐趣味は無いから割と放し飼いかな。会社も人間も」
「私もその対象の一つってこと?」
「ちゃんと触れたいって欲はある、だからキスするって言った」
逃げ道のない私にとっては何の意味もない質問ばかりを結城に投げつけた。
それに全部答えた結城の解答も、聞いたところで日常は変わらない。
でも、オブジェが欲しいなら石像を買えばいい。
身の回りの世話係が欲しいなら家政婦を雇えばいいと思ってしまうのは、私自身の存在を消してほしくなかったからだろう。
だから、結城の私に対する欲を確認する浅ましさを見せてしまった。
「でもそれ以上は望まない」
「・・・」
「気持ちよくないでしょ、きっと」
「さあ・・」
「俺さ、抱いてって言わたら抱くけどそうゆうのって面倒だと思うんだよね」
抱く抱かないの確認なんてしなくていい筈なのに、言葉が刺さって抜けてを繰り返してやっと意味を理解する。
プラトニックな恋人ごっこも面白そうだと思い始めるほどには毒が回りきっていた。
「怜さんは俺の視界の中に居てくれればいい、あと、偶にその体温を感じさせてくれれば・・ね」
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