220人が本棚に入れています
本棚に追加
眩しい朝日を感じて薄っすら目を開けた。
見覚えのある天井、そして陽の光で透けて見えたピンクカーテン。
ぼーっとする頭を抱え起こした上半身でゆっくりゆっくり今の景色をこの瞼に焼き付けた。
これが最後の景色で、最後の朝になるかもしれないから と。
「怜、本当に・・」
「大丈夫だって、それに園には毎日来るし。ただ朝と夜いないだけよ」
「だからって何もそんな・・」
「私に彼氏ができて同棲を始めたと思ってくれればいいから」
まだパジャマのままで座ったダイニングテーブルには朝食を運ぶ母の心配そうな声が終始飛び交っていた。
昨夜帰宅し、事情を一部端折って話した私を今にも泣きだしそうな目で見ていた母は一度たりとも視線を逸らしはしなかった。
逆にずっとその目を見れなかったのは私の方で、俯いたり、左右に視線を変えてみたり、でも結局落ち着かなくて俯いて・・
「何かあったらすぐ帰ってきなさい」
「え?」
「私にとって園はとても大事な物。でもそれ以上に大切なのは、怜あなたよ」
「お、かあさ・・ん」
変わらない朝だと思い込んでも、母の放つ言葉一つ一つで現実を見させられる。
あの真っ白な部屋を思い出させられる。
「ありがと・・でも、私はこの園が大切だから」
「怜・・」
「お父さんも、お母さんも・・大切だから」
「・・・」
「でも、」
茶碗を持った手が、箸を持った手が、すっと力が抜けたかのようにテーブルに落ちた。
何かを言おうと躊躇った口は強く詰むんだまま中々開かない。
「・・でも」
できるだけ逃げ場は排除しておこうと思っていた気持ちが邪魔をする。
言ったところで現状が変わるわけでも何でもないのに、枷になり兼ねないその言葉を頭で浮かべても請うことが出来なかった。
でも。
「もし、泣きそうになったら・・さ、同じ言葉をかけてね・・」
それ以上に大切なのは、私だと。
やっと開いた口から出て来たのは本当に大した願いではなく、しかし、私にとっては大きすぎる願いでもあった。
何のことか分からないままの母は、小首を傾げてこちらを見ていたが、言葉終わりと同時に動き始めた両手は並べられてた料理を次々口に運んでいた。
逃げてきたときに必要としてくれる存在の証を求めた私は、まだ弱い。
でも、それでも捨てた覚悟と、決めた覚悟を両方背負う今日と言う日を生きなければならない。
最初のコメントを投稿しよう!