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「腹立つくらい快晴ね・・」
自宅の玄関を抜け、園の通用口に向かうまでの室外は雲一つない青空にカンカン照りの太陽。
じりじりと焼ける様に熱い癖に、どこか湿っぽいのは雨でも降る予兆なのだろうか。
雨雲なんて来るはずないと錯覚するほどの天気を頭上にジャリッと音を立てて一歩を踏み出した。
いつもと同じエプロンをして、通園する園児を待って、何も知らない園児達と馬鹿みたいなことをして笑って。
身に降りかかった最悪なんて無かったかのように陽が動きそして傾いた。
「れい先生!またねー!!」
「はーい、また明日ね。気を付けて帰るんだよ」
最後の一人がお迎えを終え、すっかり静かになった園内をまじまじと見つめる。
まだ長めの陽が色を付け始めた頃合、朝に比べて風が出てきたと思える程には髪の毛が頬にかかる回数が増えた。
サーッと紅葉の樹が揺れると数枚落ちた葉が風に乗って足元を走る。
「・・・」
本当は人に言えないだけで怖いのだろう。
今ここに居る自分が、何を考えてるかわからない結城も全てが。
強くあること、ただそれだけの信念で飲み込んだ唯一の解決策でさえも、あの白い部屋も。
「怜さん、迎えに来たよ」
この優しい声も。
振り返った私の目に映ったのは夕日に逆光した真っ黒な人影。
背が高く、体格の良い黒い影が綺麗なフォームを描いて一歩一歩私に近づいてきた。
やっと見える様になった顔立ちも服の模様もどうでもいい。
見えても見えなくても今ここにきてこの言葉をかける人物は一人しかいないのだから。
「・・わざわざ、どーも」
「お疲れ様。荷物まとめた?」
「えぇ、それなりに、まだ仕事終わってないから先帰ってて構わないわ」
「え?」
「あとで何らかの交通機関を使って行くから」
申し訳程度に視線を合わせて、すぐ背を向けながら放った言葉に結城が少し悲しそうな声を上げた。
オレンジ色の景色に二つの影が日の傾きと共にゆっくり細長く伸びる。
その影を見るだけで不自然に心拍が上がった。
「夕飯までには帰るから・・って、ちょ・・っと」
結城に向けた背をそのままに一歩踏み出すと、動くはずの体が思ってたよりも前に進まなかった。
そして感じる二つの熱。
左右の肩と、右耳にかかる吐息。
その大きな掌が私の両肩を包んで微弱な力で動きを止めていた。
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