藍砥茶(あいとのちゃ)

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ホームには私と彼、そして後からホームに来た数人の乗客。 端から見たらホームで腕を掴まれ向き合ってる男女なんてただのバカップルにしか見えないだろう。 鳥肌がまだ収まらない身体を必死に引いてみても、その腕はビクともしなかった。 「あのさ・・今から帰ろうとしてるの分かんない?」 「でも最終は逃したんでしょう?」 「貴方のせいでね、それでもタクシーで帰るからお詫びなんて要らないわ」 「そう言わず、ね?」 強引だなと思う頃には次の車両が到着する音が聞こえ始めた。 ちらほら人も増え始め、不思議そうにこちらを見ては視線を逸らす。 これだから馬鹿は嫌いなんだ。 増え続ける人に比例して、居た堪れなくなる気持ちが大きく膨らむ。 きっともう一度否定の言葉を吐いたとしても、円周上をぐるぐる回るだけ。 「だから・・」 「じゃあ、言い方を変えます」 「え?」 「偶然とはいえ、一目惚れしました。一軒だけでいいのでお付き合い頂けませんか?」 「・・・」 私の背中には乗車を待つ人が列を作り、私の目の前にはやたら体格の良い短髪男が腕を掴んで離さない。 そして、お詫びを訂正して言われた誘い文句は突拍子もなく返答に困る程、思考回路を焼き切った。 言葉にならない感情は文字通り声を出す仕草を忘れて、ポカーンと口を開けるだけ。 「決まりですね、行きましょう」 「え、っちょっと!まだ私、行くなんて・・」 ホームに鳴り響いたブザー音。 遠くの方から見えた2つのライトは目の前を通過する前に捕まれてた腕を引かれ、地上に出る階段へと向かった。 まだ了承なんてしていなかった私は、急に動き出した身体に歩きにくいヒールの軌道を無理矢理直しながらついて行くだけで精一杯。 「もしかして明日仕事だったりします?」 「いや、それはないけど・・」 「じゃあ、帰りは店からのタクシー代出しますから」 「ちょっと!!」 私より遥かに高い身長の彼とは歩幅が合わない。 よろめきながら歩く私を時折振り返って見ている癖に、その歩幅は小さくなる事は無かった。 そして改札の前に辿り着く。 ICチップで出入りしている改札を目の前に、掴まれていた腕を離されると彼は自身のICチップと取り出して私を見つめた。
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