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「この辺の店でいいよね」
「待ってって!私、此処の改札からは出れないから」
「え?」
「乗車駅が此処だもの、同じところからは出れないでしょ・・」
ピッとかざしたICチップは予想通り赤くエラーを示し、改札が勢いよく閉じた。
ほらねと言わんばかりに顔を見上げれば、何かを考えたふりした彼が徐に近くに会った駅員呼び出しボタンを押す。
小さなスピーカーから駅員さんの声がどうしましたかと問いかけた。
「すみません、一度改札通ってしまったんですが、同じ場所から出れます?」
『あぁ、大丈夫ですよ。ちょっと待ってて下さいね』
何の気なしにボタンを押して話始める彼を数歩離れた後ろで見守る。
今なら走って逃げてもいけるのではないかと思ったが、ただでさえ歩幅が違うのだすぐ追いつかれてしまう。
これじゃあどっちが逃げているのか分かったもんじゃない。
『今通れるようにしますから、ICチップかざして改札出て下さい』
「だってさ、ほら早く通って」
「・・・」
ガチャッと何かが解除された様な音がした後かざしたICチップは、赤いエラー表示無く改札を開けた。
足取り重くその改札を抜けると、またガシャンと閉まった改札を見て溜息を吐く。
そして此処まで来てしまった自身の言動を思い返して後悔を抱いた。
あの時、明日仕事だと言っておけば良かったと。
「貴方、逃げてるんじゃないの?」
「あぁ、もう大丈夫」
「大丈夫って、どうゆう・・」
「その話は後、さて、どこ行こうか」
連れ出されて抜けた改札はもう一つの階段を上って外界に続く。
また同じ階段を上って出てしまった外の空気は風はないものの冷えていた。
まだ人通りの多い道は殆どが足を動かし、止まったままの私達を避けながら歩いている。
「・・どこでもいいから、寒い」
「そんな薄着してるから、女の子に冷えは天敵でしょ?」
「だから早く店決めて」
「うーん、とりあえずコレ羽織ってて」
薄着とはいえ、カーディガンくらいは着ている。
肌に刺さり始めた風に店を急かすと、フワッとした香水の匂いと共に私には大きすぎるジャケットが肩から掛かった。
それは現に彼がついさっきまで着ていたジャケット。
藍色で七分丈のインナー一枚になった彼は寒さも見せず携帯に目を落とした。
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