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「最近は、テロリストの情報交換に夢の中がよくつかわれるらしい。なんの形跡も残さなくてすむからな。おかげで当局が夢の中まで取り締まる、なんて馬鹿げた話も出てきている」
TBが煙を吐き出す。
「夢の中に警察?」上手く想像できなかった。
「今や犯罪者の巣窟だからな。夢のなかは」
「・・・・・・犯罪者」
「安心しろ、お前のことを言ってるわけじゃない」
TBは頼んだぞ、と言って味のしないはずの煙草を靴の裏で揉み消した。
待ち合わせの喫茶店でエスプレッソを舐めていると、十二時きっかりにスーツを着たブルドッグのような男が目の前に座った。世間話も挟まずに、TBから聞いた株式の情報を伝える。
「それは、確かな情報か?」
「分かりません。僕は、伝達するだけですから」
男がメモを取ろうとするのを、僕は制した。
「形跡を残してはいけません」
ああ、と言って男は目を泳がせる。必ず当たる馬券を教えられたようなものだ。できるだけの金を工面する方策でも考えているのだろう。
僕は席を立つ。一丁上がり、というヤツだ。
緑色の空に、ピンク色の海。
今日の夢は、どこか別の惑星の映像にでも影響されているのかもしれない。
僕はただ単にこれは夢だ、と夢の中で気付けるだけで、夢自体をコントロールすることはできない。海を眺めていると、トレンチを着た男が近づいてきた。男は似てはいるものの、TBではなかった。
「君がTBの相棒なのか」僕は頷く。
「仕事の話?TBは?」「死んだよ」「死んだ?」
「ああ。正確には殺された。三十箇所ぐらい刺されていたらしい」
男は半分笑いながら自分の体に包丁を刺すような仕種をみせた。
「この手の仕事はな、ありとあらゆるところから恨みを買うようにできている。TBの場合、特にひどかった」
あんな風に見えて、結構なやり手だったからな。男は浮かべていた笑みを消した。
仕事は続けたいか?と聞かれ、僕は首を振る。
「単純で、とにかく体力を使う肉体労働でもしようと思います。毎日クタクタに疲れて眠れば、こんな障害もなくなるかもしれませんから」
「それは名案だ、よけいな時間やあまった体力が変な妄想や病気を生み出すからな」
それといらない金もだ。
幸運を祈る、と言葉を残すと、男はローソクの灯が消えるようにその場からいなくなった。
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