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「都築、もっとしたい」  抱き寄せて耳元に囁いてから着たままだった上半身の服を脱ぎ捨てた。ベッドに上がって右手を差し出す。 「おいで」 おずおずと手を伸ばした都築を引き上げて胸の中に抱き込んだ。裸の胸できめの細かい素肌を包むと、泣きたくなるくらい幸せだった。  まさかこいつのことをこんなふうに愛しく思うようになるなんて、数ヵ月前の俺には想像できなかったことで。 今までトキメキや欲情の対象は女の子で、それなりに彼女だっていたわけだし、ほんと自分の嗜好の変化が謎だなぁ。  別にゲイとして目覚めたわけではないと思う。 大学の友達には都築レベルではないにしても合コンの目玉になるようなやつもいるし、都築とより付き合いの長い店長だって、アラサーのおっさんではあるが、おばちゃんのファンが付くくらい男前だったりする。 けれどもそいつらにトキメクことは一ミリもない。欲情するなんてこともナノレベルであり得ない。  俺は『都築』が好きなんだ。 不器用で愛想が悪くて健気で可愛らしい都築だから好きなんだ。
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