いわれのない夕焼け

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 奥に進むに連れて、か細く聞こえていた女の子の声は次第にはっきりとしていく。最初は何かを言っている、位にしか解らなかったが、言葉がかすかに聞き取れるようになる。僕はその声を頼りに拝殿の奥、本殿へと進んでいった。か細い女の子の声に、異音が混じっているのに、近づくにつれて気づいたが、それが何の音なのか僕には判断がつかなかった。鐘を鳴らす音にも似ていた。  本殿の裏側に差し掛かった僕は、思わず足を進めるのを止めた。  本殿の裏側に見えたのは、少し開けた場所。大きな木がひときわ目を引く。その前に女の子がいた。絞りだすような声で一心不乱にぶつぶつと呟きながら、何かを振るっている。それだけで僕には充分異様な光景に思えた。何かに取り憑かれているように、女の子は僕に気付きもしないで、ひたすら片手を振るっている。  異音の正体は女の子の振るっている、金槌の音だと解った。  かん、かん、と規則的な音がする。背筋に冷たいものを感じた。声を掛けるべきかどうか、迷う。けれど、女の子の様子は明らかにおかしかったし、僕は唾を飲み込んでから女の子に近寄った。どうしたのか、と声をかけなければならない気がした。僕が近づいていっても、女の子は僕に気付きもしないまま、一生懸命に金槌を振るっている。 「あの、君……」
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