一幕 まさかの事実

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組に着いても頭は一杯で、いつの間にか赤木組の ソファーに座らされ、目の前には先日会った強面 たちが勢揃いしていた。 「何か、用ですか?」 場違いな質問をしている自覚はある。 あるが何をどう聞けばいいのかさっぱりなのだ。 「まぁそう怖がらないで下さい。私らは貴方の敵 ではありません。」 「…」 そう言われても仕方がない。 だって相手はヤクザなのだから。 「貴方の先日殺害された祖父、赤木聿之丈 〈あかぎいちのじょう〉さんは赤木組組長 赤木仁之丈〈あかぎじんのじょう〉の弟にあたり ます。」 「…はい?」 赤木は赤木でもヤクザの赤木と医師の赤木が兄弟? 「疑うのは無理もありません。聿之丈さんは貴方に何も話していないとおっしゃっていましたので。」 「本気で言ってます?」 「本気です。」 こちらの事などお構い無しに話は続くらしい。 「聿之丈さんは九州の大学で経済学を学ばれ」 経済学? 「ちょっと待ってください、経済学ですか? 祖父は医師の筈ですが。」 「モグリです。」 「モグリ?」 「医師免許を持っていないと言うことです。」 それぐらい解る。モグリって…祖父は犯罪者かい!? 「大学卒業後ここ東京に戻られ、独学で勉強に励み 診療所の看板を揚げられました。」 これじゃあ私の知ってた祖父は何だったんだって なるじゃん。 「そして貴方が祖父に世話になり始める頃、 経済学の知識を生かして赤木組の最高顧問と 成られました。」 …今、何て言った?最高顧問?! 「私の祖父がヤクザだったって言うんですか?」 「はい。」 加佐見さんは至極真面目に答える。 この真顔で言われると信じるしかない感じが してくる。 「ここからが本題です。」 まだあるのかい。 「先月、おじきが倒れました。 全身がんの末期だそうです。」 「それは、大変なことで…。」 「いつお迎えが来てもおかしくない状態に あります。」 「はぁ…。」 いきなり暗い話をされても困る。 「この事態に乗じ、幾つかの組が赤木組を潰しに かかりました。」 何かすっごくめんどくさい方向に話が進んでる 気がする。 「うちは代々世襲制でして、先ず血縁者である 聿之丈さんが狙われたと言うことです。」 成る程、祖父はヤクザの抗争に巻き込まれた訳だ。 「何で赤木組が潰されなきゃいけないんですか。」 「この不景気にどのシマの連中も金がない だから麻薬〈やく〉や売春〈うり〉に手を出し 始めました。」
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