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僕は生まれたときから声を出すことができない。両親は生まれても泣くことのない僕をひどく心配したという。
「生まれてきてくれただけで私たちは幸せよ」
お母さんはそういったが、僕はその言葉に腹を立てた。僕は声を出すことができないのになぜそんなに幸せそうにしているんだ。みんなと話したいのに。カラオケに行って歌を歌ってみたいのに。
中学校では友達とも付き合うことはなく一人でいた。授業で当てられることもない。毎日その繰り返しだ。
家に帰るとお母さんは「おかえり」と優しく声をかけてくれたが僕は無視した。小学生の頃はわざわざ紙に「ただいま」と書いてお母さんに見せていた。お母さんは嬉しそうに頭を撫で、僕は嬉しそうに笑っていた。
家にいるときは部屋に閉じこもり、お母さんに「今日は、学校どうだった」と話しかけられても冷たい態度をとった。それでも嫌な顔をせずに何度も話しかけてきた。お父さんはそんな僕を怒ることはしなかったが話しかけてくることもなかった。
一年がたって僕は高校の受験に受かった。別にうれしくもない。ああ、またつまらない3年間が始まるのか。そう思っただけだった。
お母さんはとても喜んだ。対して頭のいい高校でもない。昔からちょっとのことで喜ぶのだ。お父さんは何も言われなかった。いつからか、会話すらなくなっていた。そのほうが僕も楽でよかった。
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