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目の前に木が立っている。
なぜ目の前に木が立っているのだろう。
ここは木以外何もない場所だった。木の葉は細長く、枝は先が細く地へと垂れ下がっている。
男はその木を見ていた。ただぼんやりと。
木が揺れた。風もないのに細長い葉がかさかさと騒ぐ。その揺れの中に男は何かを見た。しかし見えたのは一瞬で、すぐに見えなくなる。同時に木も揺れるのをやめた。
再び静寂が訪れる。
見えたものが無性に気になる。男がそう思っているとまた木が揺れた。さっきよりも激しい。垂れた枝が舞うように揺れ上がる。
あまりの突風に男は顔をしかめた。それでも目だけはしっかりとこらしていて。
彼が見たのは、幹にしがみついている青白い二本の腕だった。
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