第1章

2/24
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
裕は急いでいた。 遅刻気味だったからだ。 昨日はデートだった。下宿先がとやかくうるさいのであまり夜遅くに帰れない。大学生にしては珍しく九時の門限を守って帰り着いた夜は宿題に追われた。気がついたら机に突っ伏して寝ていた。真夜中にベッドに入り直したものだから、朝は爽やかな目覚めとは言いがたい。 なのに今日は一限から夕方までびっしりと授業が入っている! 出席に厳しい一限の教室に、ぎりぎり入り込んだ時は眠気も吹き飛んでいた。 ああ、よかった、間に合って。 代返が一切きかない教授の授業。彼女の後に入ってきた学生の出席は認められず、肩を落とす仲間に、明日は我が身と思った。 二限目の教室はといえば、人の姿はまばらだった。 顔を見合わせた他の学生ときょろきょろ周りを見たら、廊下の向こうから同じ授業を取ってる学生達が知らせてくれた。 「休講だってさ」 「課題の指示が出てたな」 「えっ、課題? 何、どんなの?」 「掲示板見た方がいいよ」 「そこまで言うなら、課題も教えてよ。いじわるー!!」 裕は正門前にとって返した。二限に受けるはずだった講義の告知と、その他の連絡事項をチェックしようと思ったからだ。 が。 正門前が妙だった。 往来を行く人も、門から出入りする人もそろってある一点を見ている。 一様に困惑した表情を浮かべている。 何だあれは、という顔を通った人の数だけ見たら、そりゃ何だ、と気にならない方がおかしい。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!