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◎テレビ画面に注目する三世代家族。大都会交差点の大型ビジョンを見上げる群衆。画面には国会中継が映されていて今まさに新法案の可否が採決される瞬間である。「独居老人支援特別予算案は賛成243反対198で賛成多数で可決されました。」大きな万歳の声で反対の意見を怒鳴る声がかき消されていく。街頭では飛び上がって喜ぶ若者と反対する人たちが大きく入り混じっている。テレビの前の家族は心配そうに見つめあう。
◎高速道路を何十台もの観光バスが連なっている。バスには高齢者が満席で楽しそうに話をしている。「大臣は素晴らしいね。」「こんなサービスをしてくれるのですから。」「無料で温泉に連れていってくれるなんてね。」「これだけの人数を受け入れてくれる施設も、あっという間に作ってしまうのですから。」「それも私財を投入されたそうですよ」
◎バスを降りた乗客は窓の無い大広間に通された。「急ピッチで作ったようで、外観も内装も地味だね。」「仕方がないわよ。」黒いスーツ姿の添乗員が「大臣が挨拶に来られますまで、少しお待ちください。」分厚いドアを閉めて出ていく。ドアの鍵が閉まると同時に足元から白い湯気のようなものが流れ始めた。「なんだよ、下手な造りだから温泉の湯気が漏れてきて…」「ドッキリカメラか…」バタバタと倒れこんでしまう。「く、苦しい…」
◎ある電車の優先席に座っている二十歳代の女性の前に、年配の女性が二人立った。両手には高級デパートの袋を持っている。「席空けなさいよ。」「でも・・・」「ここは若い人が座ってはダメなの。」「私は・・・」「買い物で疲れているの。早くどきなさい。」若い女性はショルダーバッグの中からカードの入った手帳を出した。「私は長い間立っていられないのです。今も病院へ行くところなのです。」「知らないわよ、何よ偉そうに。元気そうじゃないですか。」
◎この女性は障害者支援施設が運営するピザ屋さんで接客の仕事をしている。障害者雇用として非常に安い時給で働いているが、不平不満を口にすることなく真面目に頑張っている。その店での休憩時間。彼女と同じような待遇で働いている若い男性スタッフが文句を言い出した。「来月から時給が下がるそうだぞ。」
◎この女性が政治の世界に乗り込み、高齢者排除による景気上昇策を提案。国会で可決されたが、実は本人も対象になってしまい、あの温泉施設へ招待されてしまう。
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