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ある、雲の多い日のことでした。
その少年は今にも泣きそうな顔で林の中を歩いていました。
「ぼくは負けないぞ、こんなことくらいで、泣いたりしないんだ」
気まぐれに強がりを叫んでみても、こだまの一つも返ってはきません。ほかに彼にできるのは、がむしゃらに脚を動かすことだけでした。
少年はひとりで雑木林の中に足を踏み入れ、すっかり道に迷っていたのです。
空は厚い雲に覆われ、夜が近付くとともに闇が濃くなってゆきます。少年は自分がどちらから来たのかさえ、もうわからなくなっていました。
「こんなことなら、やっぱりやめておけばよかった……」
やがて歩く気力さえなくなってきた少年の脳裏に、小学校での友達とのやり取りがよみがえります。
近くの林を探検しよう。そう提案したのはほかならぬ少年自身でした。
「こどもだけだと、あぶないよ」
「おかあさんが心配するから行きたくない」
「宿題しないといけないから」
ですが、友だちは誰も探検に行きたがりませんでした。きっと一緒に来てくれると信じていた少年は、頬を膨らませながら言いました。
「わかったよ、いくじなしめ。ぼくはそんなおくびょうものじゃない。ひとりでもきっとすごい宝物をもって帰ってやる」
ですが、リュックに詰めたお菓子は底をつき、武器として携えた木の枝はどこかに落としてしまいました。今となっては後悔しかありません。みんなの方が正しかったのです。
つよがる力もなくなり、少年はついに涙を流しはじめました。同時に、心の底からの願いが叫びとなって、林の中に響き渡りました。
「誰か……誰か助けて!!」
呼んでも誰も来ない、それはまだ幼い少年にもわかっていたことでした。そうする以外に何もできない、だからそうしただけのことです。
しかし。
次の瞬間でした。暗い林に閃光が走ったかと思うと、少年の目の前に謎の人物が立っていたのです。
「やあ。ぼくに助けを求めたのは少年、君だね」
少年に向かって声をかけてきたその人物は、真っ赤な全身タイツを思わせる奇妙な衣装に、お揃いの赤い仮面をつけていました。奇妙ないでたちですが、なんとなく見覚えのある姿です。少年は思わずつぶやきました。
「まさか、ヒーロー?」
派手な色のスーツに身を包み、悪と戦うテレビのヒーロー。
その格好に、よく似ていました。
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