第1章

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 ある、雲の多い日のことでした。  その少年は今にも泣きそうな顔で林の中を歩いていました。 「ぼくは負けないぞ、こんなことくらいで、泣いたりしないんだ」  気まぐれに強がりを叫んでみても、こだまの一つも返ってはきません。ほかに彼にできるのは、がむしゃらに脚を動かすことだけでした。    少年はひとりで雑木林の中に足を踏み入れ、すっかり道に迷っていたのです。  空は厚い雲に覆われ、夜が近付くとともに闇が濃くなってゆきます。少年は自分がどちらから来たのかさえ、もうわからなくなっていました。 「こんなことなら、やっぱりやめておけばよかった……」  やがて歩く気力さえなくなってきた少年の脳裏に、小学校での友達とのやり取りがよみがえります。  近くの林を探検しよう。そう提案したのはほかならぬ少年自身でした。 「こどもだけだと、あぶないよ」 「おかあさんが心配するから行きたくない」 「宿題しないといけないから」  ですが、友だちは誰も探検に行きたがりませんでした。きっと一緒に来てくれると信じていた少年は、頬を膨らませながら言いました。 「わかったよ、いくじなしめ。ぼくはそんなおくびょうものじゃない。ひとりでもきっとすごい宝物をもって帰ってやる」  ですが、リュックに詰めたお菓子は底をつき、武器として携えた木の枝はどこかに落としてしまいました。今となっては後悔しかありません。みんなの方が正しかったのです。  つよがる力もなくなり、少年はついに涙を流しはじめました。同時に、心の底からの願いが叫びとなって、林の中に響き渡りました。 「誰か……誰か助けて!!」  呼んでも誰も来ない、それはまだ幼い少年にもわかっていたことでした。そうする以外に何もできない、だからそうしただけのことです。  しかし。  次の瞬間でした。暗い林に閃光が走ったかと思うと、少年の目の前に謎の人物が立っていたのです。 「やあ。ぼくに助けを求めたのは少年、君だね」  少年に向かって声をかけてきたその人物は、真っ赤な全身タイツを思わせる奇妙な衣装に、お揃いの赤い仮面をつけていました。奇妙ないでたちですが、なんとなく見覚えのある姿です。少年は思わずつぶやきました。 「まさか、ヒーロー?」  派手な色のスーツに身を包み、悪と戦うテレビのヒーロー。  その格好に、よく似ていました。
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