老公爵と成人の儀

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その夜は、ユリアンにとって生涯忘れられない夜となった。   良く喋り、良く笑い、お酒も入って楽しい一時を過ごした。   クラトも辛抱強くユリアンの馬鹿話に相づちを打ち、公爵もそんな二人を可笑しそうに笑った。   やがて楽しかった晩餐会も終わりを迎え、来賓客を送りだすとユリアンは女官や使用人らが料理を片付ける姿を名残惜しそうに眺めていた。   「ユリアンさま、公爵さまがお部屋でお待ちになられていますよ。一緒においで下さい」   クラトがそう言ってユリアンを促す。ロウソクの並ぶ通路を歩きながら、彼は話しをはじめた。   「私は一つ、坊ちゃんに謝らなければなりません」   「どうしたんです?先生」   ユリアンがキョトンとして聞き返す。謝られるような事は無いはずだ。   「その先生というのはお止め下さい。これから坊ちゃん……いえ、ユリアン様は私の主人になられるのだから。謝るのは他ならぬユリアン様を今まで騙していた事です」 クラトは少し言葉を切る。どのように切り出すか迷う様子だったが、腹を決めて言葉を継いだ。 「私は本当は、旅商人ではありません。公爵様にお仕えする忍びの者、影幌旅団(カゲホロリョダン)の団長を務めています。今後旅団の剣は、ユリアン様にも捧げられます。我らの力が必要な時は、いつなりとお申し付け下さい」
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