運命の一夜

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ユリアンは、これまでの疑問がすっかり腑に落ちた。   どう考えてもクラトの知識や剣技は商売人のそれではあり得ない。むしろ今まで気づかなかった自分が鈍い、と彼は内心苦笑した。 公爵の居室へ着くとクラトが軽くノックする。待ち構えていたのか中からのいらえはすぐに返ってきた。 「只今ユリアン様をお連れしました」 クラトが声をかけて中へユリアンを入らせると、マリオン公は応接用のソファーに息子となったユリアンを座らせた。 クラトは番をするかのようにそのまま扉の内側に立っている。 「待っておったよ、これでようやく話が出来る」   公爵はすでにゆったりとした部屋着に着替え、くつろいだ様子で左手にはブランデーのグラスを揺らしていた。 ゆっくりとユリアンの向かいに腰を降ろす。手にしていた酒は口に運ばず、ローテーブルの上に置いた。   「実はな、来てもらったのは他でもないお前に渡したい物があったからだ」 「渡したい物、ですか?」   「そうだ、これをお前にやろうと思ってな」   そう言うと公爵は、懐から紐の付いた小さな革の袋を取り出した。 それをテーブルにそっと置くとおもむろに自らの左手に嵌めた指環を外す。 それは大きなオニキスをあしらった、マール公爵家の紋が入った特別な物だった。 そっとユリアンの左手を取ると、中指に嵌めてやる。   「これはマール公家に代々伝わる物でな、当主の証しだよ」
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