喪失の夜明け

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「何てことだ……。公爵様が亡くなられるなんて……」   アレンもカイトもあまりの事に呆然としている。 こんな際だったが、どうしてもマール公爵家のこれからを思わずにはいられなかった。 二人はまだユリアンが次期当主である事など知らない。   アレンが恐々としてユリアンの脈をとる。次いで鼻先に手のひらを当て呼吸を確認した。   「良かった……ユリアンは寝ているだけみたいだ。しかし酷い格好だな。服がボロボロだ」   まだ公爵から目が離せないでいるカイトは、アレンの言葉でやっとユリアンの姿へ視線をやった。   「うへぇ!酷いな。まるで夕べの雷にでも撃たれたみてぇだ」   「バカ言え!中腹のアレを見たろ?ほんとに撃たれたなら炭みたいに丸焦げだよ」   アレンはカイトをたしなめながら、軽くユリアンを揺さぶってみる。   「……死んだように寝てやがる」   「だが生きている」 カイトのつぶやきにアレンが力強く返した。   「本当に良かった……」     カイトは何か言いたげにしたが、思い直して口をつぐんだ。     「……う、うっ……」   その時、微かにユリアンが呻いた。 待ち受ける運命を未だ知らぬ、それは穏やかな目覚めだった。
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