喪失の夜明け

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ナルヴァの離宮── そのロビーで繰り広げられているのは、ユリアンがこれまで見たことも体験したこともない壮絶な死闘と言うべきものだった。   マリオン公爵と護衛の一行は既に黒衣の賊を二個小隊ほど戦滅していたが、もはや無傷な者はおらず満身創痍の上にその数を半数以下に減らしていた。   公爵も額から血を流しながら、老齢を押してなお勇壮に戦っている。   「父上!!」   ユリアンはそう叫ぶと、乱戦のさなかに飛び込もうとした──   しかし彼の足が、初めて恐怖にすくんでそれを許さなかった。   (なんなんだ、これは…)   突如襲われた恐怖。 目の前で人が斬り合い、殺し合っている。飛び散るのは血だけではない。頭蓋骨を損傷した者はピンク色の脳漿をこぼし、腹部を斬られた者は臓腑が零れるのを必死で押さえようとしている。 これは全て、これまでユリアンが育ってきた環境とはまったく無縁のものだったのだ。 あまりの理不尽な状況を目の当たりにして混乱が湧き起こった。   その時視界の隅に飛び込んできたものは……   片腕になって床に転がったまま動かない、クラトの姿だった。   「ああああぁぁぁぁ!!!!」   ユリアンは頭を抱えて叫び始めると、嘔吐感に襲われ膝をついて胃液をぶちまける。 そこへ一人賊が刀を振り上げた。   「ユリアン!!!」   公爵の叫ぶ声に顔を上げてみると、目の前に背中から貫かれた賊の姿…… 「ぐっ……ふ……」 そして剣を投げて武器を失った公爵の胸に生えた、刃の鈍い輝きが見えたのだった。
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