仮面の男

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ユリアン達が新たな旅立ちを踏み出したのと同じ朝──   鬱蒼と茂る木々に隠れるようにして立っている古びた廃城の姿があった。   うらびれたその一帯は、先の戦争のそのまた以前から打ち捨てられていた古い山越えの街道があったのだが、道のりの険しさに加えて山賊がはびこったせいで廃れ、後に迂回路が出来てからは足を踏み入れる者とて居なくなった場所である。   まるで妖魅でも出てきそうな古城は遥か昔にこの辺りを支配していた豪族のものであったが、没落して長い間空き城となっている。 山賊が横行していた時代には彼らの根城でもあったが、今は誰も住む者とて居ない筈であった。   しかし今は通る者のない山越えの旧街道の古城へと、駆け込む男の姿があった。 彼は明らかに火急の用を携えて疾駆している。   白昼でも薄暗い木々の合間を縫うようにして走る男は全身を黒い服で包み、人気の無い山あいにおいてなお人目をはばかる様にして城門へと消えていった。     「──ではしくじったと言うのだな?」   外見とは裏腹に綺麗にしてある城内の謁見の間に、重々しくもまだ若い男の声が響く。   恐らく代々の城主が座っていたであろう、石造りの椅子にその男は座っていた。
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