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マリオン公爵は、おのれの胸に生えた鈍色の刃を一瞬不思議そうに見つめた。
視線をユリアンへ戻すと、彼の名を呼ぼうと弱々しく口を開く──
しかし彼の唇から漏れたのは声ではなく、乱れ咲く花のようにしぶいた真っ赤な血潮だった。
世界から音というものが消えたかのように静かに、ユリアンの養父が崩れ落ちていく。
その様はまるで、一度だけ見た興行師一行が演じる有名な王の悲劇の一幕に似て、幼く孤独だった頃の自分が何故か思い出された。
どこかでバチバチッと何かが弾けるような音が響いたが、それよりも先ほどから聴こえ始めた叫び声が不愉快なほど耳障りだとユリアンは思った。
「…さ…ん……と…さん…」
(…うるさい…な……)
「……さん! 父さん!! 父さん!!」
叫んでいたのは
───自分だった。
「ぅぁぁああああ!!!!!」
ユリアンはまるで一頭の猛獣になっていた。
彼が操る刀は、巨大なキバのようにその場に居る賊を引き裂き、突き刺し、容赦なく屠って行く。
その目には、既に理性など皆無だった。
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