喪失の夜明け

4/13

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
たまらず逃げ出した数人の賊をユリアンは無意識のままに追い掛けて、夜の山中へと飛び出して行った。   遠く麓から炎に照らされていた辺りも、木々に紛れては闇に沈んでいる。   その中を疾走するユリアンは不可解な事に、青白く光を放っているように見えた。   時々はぜるようにバチバチッと音を立てながら、稲光のようなものが体をなでるように走っている。その様はまるで闇に浮かぶ地獄の幽鬼か、はたまた言い伝えに聞く雷精の化身のように見える。   しかし当の本人は、理性を無くし獲物を追って無心に走る獣と化していて、己の様子には気付いていないようだった。   その彼の瞳に幾筋かの灯りの揺らめきが映り、足を止める。   若干の落ち着きを取り戻したユリアンが見たものは、ナルヴァの村から逃れて来た数人の村人と、それを追って山狩りを行っている黒衣の騎士団の手にかざされた松明の灯りだった。知るよしもない事だが、それはアレンたちが撃退した黒騎士の残党である。   逃げている村人の顔が見えてユリアンはハッとした。 その人影は彼が良く知る粉屋の一家であった。   「公爵様達に知らせねば!!」   怪我をしている様子の父親を支えながら母と娘が離宮を目指す。 麓からは異変の影など見えず、屋敷はひっそりと静まり返っている。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加